不動産鑑定士の仕事

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福岡!企業!元気!のための法律ワンポイント 《令和4年4月号》
不動産証券化H

1.はじめに
エンジニアリング・レポートとは、建物の物理的調査に関するレポートですが、今回は「修繕更新費用」と「再調達価格」についてご紹介します。

2.修繕更新費用
(1)修繕更新費用とは
「修繕」とは、建物の劣化した部材や設備を原状または実用上支障のない状態にまで回復することであり、「更新」とは、劣化した建築部材や設備を新しいものに取り換え、初期水準に回復することです。
修繕更新費用を算定する目的は、対象建物が過去にどうような修繕や保守を行ったかを調査し、その結果、今後どの程度の修繕費や更新費が発生するのかを把握することにあります。
なお、エンジニアリング・レポートの修繕更新費用には、建物の性能・設備等を初期水準以上に回復させる「改修」は含まれていません。例えば、古い事務所ビルの床をOAフロアーに変更することや共用トイレを最新の温水洗浄便座に取替えること等は改修工事に該当するので、これらは修繕更新費用の対象外となります。


修繕更新費用イメージ
(2)対象期間
修繕計画の対象となる周期は、10年〜12年とすることが一般的です。
(3)鑑定評価への影響
修繕更新費用は収益還元法の支出項目になりますので、修繕更新費用が大きくなると年間キャッシュフローが小さくなるので、評価額は低くなります。例えば、エレベーター、外壁工事等の大規模修繕を適切に行っていない築古の物件は、多額の修繕更新費用が予想されるので、評価額は低くなります。

3.再調達価格
(1)定義
再調達価格とは、現況の建物と同一仕様のものを価格時点で新築する場合の費用です。再調達価格は、周辺の類似の建設事例と比較して坪いくらという求め方ではなく、仮設、土工、建物の躯体・仕上、電気、衛生、空調などの工事原価に一般管理費を加える積算方式により求めます。
なお、鑑定評価の再調達原価と異なり設計監理料が含まれていないことに注意が必要です。
(2)鑑定評価への影響
エンジニアリング・レポートの再調達価格は、積算価格の再調達原価を査定する際の参考価格となります。また、再調達価格をベースに修繕更新費用を見積もるため、鑑定評価上、収益価格のキャッシュフローや還元利回りにも影響を与えます。

4.最後に
次回以降は賃料の評価について説明致します。

回答者 不動産鑑定士 佐々木 哲
佐々木不動産鑑定事務所
不動産鑑定士 佐々木 哲
〒810-0004 福岡市中央区渡辺通2-6-20 ラクレイス薬院203
TEL092-791-1873 FAX092-791-1893
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