1.はじめに
今回は、不動産鑑定士の守秘義務についてご説明します。
2.賃貸事例の開示の要請に応じる必要があるか?
継続賃料の訴訟において、相手側の弁護士や裁判官から鑑定評価書に掲載した賃貸事例の詳細を開示するよう求められることがあります。賃貸事例とは、賃貸借契約の賃料水準、用途、面積、大まかな位置等が記されたもので、基本的には当事者間しか知りえない情報です。
このような要請に対して、不動産鑑定士は応じる必要があるのでしょうか?
不動産鑑定士は、原則として開示に応じる必要はありません。事例の詳細情報の開示は、個人情報の漏洩になってしまうためです。日本不動産鑑定士協会連合会は、「不動産の鑑定評価等業務に係る個人情報保護に関する業務指針」を定め、事例情報の取り扱いを厳格に定めています。
3.個人情報保護法と取引事例、賃貸事例等
前記の業務指針によると、「事例カード、又は事例カードに類するもので、その対象不動産の所在を特定する情報(位置図、住宅地図などに事例の位置を特定できる程度に明示された情報、あるいは住居表示や地番の情報)が含まれているものは、たとえ、当該事例カード等自体に取引当事者の氏名など直接個人(本人)を特定する情報が含まれていなくても、通常の人が一般的に容易に閲覧又は入手できる不動産登記簿や住宅地図などと照合することで、取引当事者の個人名が特定できるので、個人情報と考えられる。」と規定されています。
したがって、取引事例等は個人情報と位置付けられ、その漏洩は個人情報保護法違反になる可能性があります。
4.個人情報に該当しない例
業務指針では、「事例カードを加工して取引当事者の氏名、物件所在地の地番、地図情報などを匿名化ないしは不特定化し、特定の個人を識別できないようにした事例情報」などを個人情報に該当しない例として掲載しています。
したがって、鑑定評価において、取引事例や賃貸事例を扱う場合、場所等が特定されないように加工して使用する必要があります。
5.最後に
次回も継続賃料を説明します。
回答者 不動産鑑定士 佐々木 哲
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