平成31年もよろしくお付き合いの程お願い申し上げます。
今年のテーマは「年金とその周辺知識」です。年金制度が今後どのように変わっていくのか、また社会保障制度である健康保険・介護保険・後期高齢者医療保険や福祉的な給付制度等も取り上げていきたいと思います。
第1回目は在職老齢年金制度についてお話します。
言葉の意味としては、厚生年金に加入して働きながら、一定以上の給料を得ている60歳以上の厚生年金受給者を対象に、その厚生年金額の一部または全部が減額される仕組みのことです。
なぜ、こういう仕組みになっているか、国の言い分としては次のようなことです。
1. 働いていても不利にならないようにすべき(60歳台前半はまだ働いて給料が受け取れる元気な世代なので、一定の限度額までは給料も年金も受け取れるようにしましょう)
2. 現役世代とのバランスから、一定以上の賃金を得ている方については、年金給付をある程度我慢してもらい、年金制度の支え手に回ってもらいましょう(これからの日本を支える世代まで年金制度が続くよう、年金額を削れるところから削りますので、高齢者も協力してください)
自らの厚生年金額が減らされる立場になった60歳以上の働く人達からは、次のような本音が聞かれます。
1. 自分がこれまで支払った保険料に応じて受け取れる厚生年金を、なぜ勝手に減額するの?
2. 働いて厚生年金が減らされるなら働かないほうがましだ。
個人の立場で言えば、納得いかないという率直な気持ちが理解できますが、視野を広げて制度全体のことを考えると、子や孫の世代まで年金制度を継続し続けることは非常に大事なことだと考えます。
在職老齢年金制度は、60歳代前半と60歳代後半と年齢により2つに分けられています。
・60歳台前半は、賃金(給料と直前1年間に受けたボーナスの12分の1)と厚生年金額の合計額が月に28万円を上回る場合は、賃金2に対し、年金を1停止する。
平成26年度末で減額されている厚生年金の被保険者は100万人弱いまして、減額されている金額は約7,000億円です。
・60歳代後半は賃金(給料と直前1年間に受けたボーナスの12分の1)と厚生年金(老齢基礎年金は入れません)の合計額が現役世代の平均月収相当46万円を上回る場合は、賃金2に対し、年金を1停止する。
対象者は30万人弱で減額されている金額は約3,000億円です。
この在職老齢年金制度により、節約できている年金額は1兆円にも昇ります。
一方で、支払われる厚生年金だけでは生活できないし、まだ元気なのでといった理由で働いている雇用者は年々増加しています。
60歳台前半の人口は800万人ですが、雇用者450万人の内厚生年金に加入して働いている人は実に69%です。60歳台後半になると、人口1000万人の内雇用者300万人で厚生年金加入者が150万人で47%となります。
社会保障審議会・年金部会で、現行の在職老齢年金制度が、高齢者への就業抑制効果があるのか無いのか論議されました。方向性としては、高齢者にも支え手としてできる限り働いてもらいたいが、60歳代前半のこの制度は抑制効果として足かせとなっている。60歳代後半の制度で減額される人は、比較的恵まれた方が多いので、それを撤廃することは、所得再配分機能からすると撤廃の必要性があるのか等様々な意見が出ているようです。
まだ、結論は出ていませんが、60歳代前半の特別支給の老齢厚生年金を受給できる世代は、男性であれば昭和36年4月1日までに生まれた方で終わってしまいます。ですから、今後は60歳代後半の在職老齢年金をどうするかの議論となるようです。
回答者 特定社会保険労務士 堀江 玲子
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