今月は離婚による年金分割の事例をご紹介します。
厚生年金の記録を分ける「改定請求手続き」は、年金事務所に対して離婚後2年以内に行わなわなければなりません。当事務所に相談・依頼があったのが2年になる3か月前であり、期日に間に合わせることができるか多少不安を抱きました。
以下、手続き順にご説明します。
なお、この事例は数年前の事実に基づいていますが、個人に関する情報は変更しています。
申立人(元妻):A子さん53歳 結婚後の厚生年金加入8年
相手方(元夫):B介さん59歳 結婚後の厚生年金加入28年
結婚生活の破綻理由はDVによるもので、離婚後元夫の所在は不明。
離婚分割をわかりやすく言うと、2人の結婚後の厚生年金の期間と給料(ボーナスを含む)を合計して2で割ったものを、高い金額の人が(一般的には元夫)、低い金額(一般的には元妻)の人へその差額を分けることです。結果的に年金額が低い人は増額します。65歳以上のすでに年金を受給している元夫婦の場合、月に3万円ほどが元妻に移っています。
@ 当事務所が代理人としで年金事務所に対して「年金分割のための情報提供請求書」を提出
B介さんは、A子さんに厚生年金を分けることを到底同意するとは思えず、当初から家庭裁判所に『審判』の申し立てをするつもりでした。そのための添付資料で、50歳以上であれば、将来自分の受給開始年齢時に受け取れる分割後の厚生年金額が載っているものです。
A子さんの場合は、65歳時点で分割をしなければ年額70万円、分割請求をやれば年額110万円です。その差40万円、月に3万円程度増えることになります。
この3万円を高いと判断するか、安いと判断するか、人によってさまざまだと思います。ただ、長い間年金相談を受けてきた経験から言うと、熟年離婚で女性に経済力がなければ、何とか離婚を避けて、近い将来受け取れる遺族年金を待ったほうがいいと考えます。(決して、相手が早く亡くなることを望んでいるという事ではなく、高齢者の女性が一人で生きていくには受給金額が少なく、困窮することが予想されるのです。)
A 「請求すべき按分割合に関する処分」審判の申し立て
数千円の費用(切手代や印紙代)は掛かりますが、書面照会や審問を経て、約1〜2か月で「審判書謄本」が送られてきます。
書面照会というのは、様々な事情があった夫婦関係なので事前に「連絡先の届出書」「進行に関する連絡表」というものを提出しておき、配慮してもらうための資料にするのです。この時は、破綻原因がDVだったので、その内容を問われました。たとえば、以下のような質問事項がありました。
《相手方の調停時の対応について》
裁判所内であれば暴力の心配はない
申立人と同席しなければ暴力をふるう恐れはない
裁判所へ薬物、アルコールを飲んでくる恐れがある
B 「審判の申立書」が相手方にも郵送されます
相手方の居所が不明だったので、ここで時間がかかりました。
家庭裁判所に別々に呼ばれ、意見を述べることができる審問が行われます。
C 双方の意見を聞き、1〜2か月後に裁判所の判断が「謄本」という形で出され、「審判確定証明書」とともに郵送される
(一部記載)
事実の調査の結果によれば、上記申立ての趣旨および理由記載の事実を認めることができる。
そこで、検討するに、対象期間における保険料納付に対する夫婦の奇与の程度は、特段の事情がない限り、夫婦同等とみるのが相当である。
したがって、別紙記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を、0.5と定めるのが相当である。よって、主文の通り審判する。
D 年金事務所に対して「標準報酬改定請求書」を提出
ところが、年金事務所より家庭裁判所から「審判の申立て証明書」を取得するよう言われる。
離婚の2年後が9月
審判年月日が10月
審判確定年月日が11月
離婚して2年が経過する前に、家庭裁判所に審判申立書を提出しているという証明書が必要とのこと。急いでそろえ提出、無事認められました。
万が一、期限内に書類がそろわなかったら、責任問題となるとヒヤッとした案件でした。
回答者 特定社会保険労務士 堀江 玲子
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