今月号は、元厚生労働省の年金局長だった高橋俊之さんが週刊『年金実務』に書かれた記事の一部を紹介します。内容は、マクロ的に年金制度を見た場合の長所と年金制度を持続させる為の理解と周知を求めるものになっています。
自分の老後の年金額を知った時、暗澹たる気持ちになる方が大多数だとは思います。
何も理解せずやみくもに「自分たちが年を取った時、もらえるわけがない」と言って、免除申請も行わず、未納のままにしておく若者達もいます。「自分が払った厚生年金保険料を勝手に止めて(在職老齢年金制度)、国がやることは非常に腹立たしい」と、怒りをぶつける方もいます。
皆さんが、年金制度あるいは日本年金機構に不信感や怒る気持ちは、十分理解できます。しかし、少し違った視点で年金制度の意義やこれからの日本の社会がどうなっていくかを知ることは、一人ひとりの人生設計又は老後の生活設計を考える上で非常に有意義だと思います。
記事の中のポイントをご紹介し、若干の感想を付けました。
1. 公的年金はリスクに備えた「保険」のしくみ
@ 生涯にわたって受給できる終身年金
一人ひとりは、どのくらい生きるかわかりませんが、国民全体であれば、平均余命という形で一定の出現率が想定されます。これを年金数理の考え方で計算して、保険料と給付のバランスをとるのが年金の財政運営です。どのくらい生きるかわからない中での老後の生活費の不安を取り除くのが、公的年金の「保険」の機能です。
(私たちが払っている国民年金保険料や厚生年金保険料は、自分の老後の年金の原資になると思いがちですが、ここが違うのですね『保険』なのです。)
A 物価変動や賃金上昇など、経済の変化に対応できる年金
物価や賃金に応じたスライドがあり、その時々の経済状況に応じた実質的な価値が保証された給付を行っており、経済の変化に対応できる仕組みです。
実際は、健康寿命の伸びに応じて、就労期間が伸び、厚生年金の加入期間も伸びていきます。マクロ経済スライド調整分(わかりやすく言うと年金額が上がらない仕組み)を、拠出期間の延長で補っていくと見れば、年金は実質的には目減りしない、という見方ができます。
(国民年金は65歳まで払う、厚生年金は75歳まで払うということが議論されています。働けるうちは払ってくださいと制度改正をせざるを得ないのですね。60歳の定年まで勤めあげたら、あとは年金で悠々自適という時代は、完全に過ぎ去りました!)
B 障害年金や遺族年金がある
それぞれの制度に受け取る際の条件はありますが、障害や死亡のリスクに備える公的年金の「保険」の機能の一つです。
(条件を満たすことの一つに、納付要件というものがあります。国民年金保険料が高くて払えない場合は、ぜひ免除申請ができないか役所に相談してください。遺族でも障害でも免除申請さえやっておけば、いざというときに役立つことがあります。)
C 全国民が義務加入の国民皆年金であることによる強み
保険はリスク分散ですから、加入者が多いほど、リスクを分散できます。「大数の法則」(たいすうのほうそく)と言います。義務加入は、保険料を負担する余裕がない被保険者や企業には一見厳しいようですが、むしろ、無理なく加入して保険料を社会経済全体の中に転嫁していくために必要な賢い仕組みと言えます。
(年金や健康保険制度によって、私たちは日々の暮らしの中で負担もしましたが恩恵も受けてきました。それが、少子高齢化、政治や経済の失速により、危うくなっています。他人事ではなく、これを支えていくのは国民一人一人の意識なのですね。)
回答者 特定社会保険労務士 堀江 玲子
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