昨年4月に群馬県の関越自動車道で乗客45名が死傷した高速ツアーバス事故をうけて、国土交通省令が改正され、8月から新しい「高速乗り合いバス」の制度がスタートしました。新しい制度になり、事業を撤退する事業者も多く出たようです。今回はこの高速ツアーバスの廃止と新高速乗り合いバスについて述べていこうと思います。
【どのように規制強化されたのか 】
高速バスは大手バス会社が停留所を設置して運行する「乗り合いバス」と旅行会社が企画して乗客を募集し、運行を委託された貸切バス会社が路上などで乗客を乗降させる「高速ツアーバス」の2種類がありました。
この高速ツアーバスは2000年の規制緩和で低料金を売りに新規参入が進みましたが、安全管理の不備等が指摘され、昨年4月の関越道での事故で大々的に表面化しました。
新しい制度では高速ツアーバスを廃止し、高速乗り合いバスに一本化することになりました。
この新しい制度が8月からスタートしましたが、事業者には、@停留所の設置 A車両6台以上の自社保有 B運行計画の事前届出 C400キロを超える夜間走行の場合は運転手2人の乗務などが必要になりました。
【規制強化の影響はどうなっているのか】
8月の規制強化により、九州運輸局によると昨年末時点で九州発着のツアーバスを運行していた17社のうち、九州や大阪の計10社が高速乗り合いバスに移行したそうです。7社は負担増に耐えられなかったり、今までの体制では運行継続が難しいとのことで、7月末で運行を取りやめたようです。
国土交通省のまとめによると、2012年9月時点で全国で286社あった高速ツアーバス事業者のうち、8月以降も運行を継続できる許可を得たのは80社で、7割以上が撤退したとのことです。
また、運行を継続する事業者も運賃の2〜5割の値上げは避けられないとの見方が強いようで、福岡〜宮崎間を運行しているある業者は最低1700円だった運賃を、8月からは3500円に値上げしたようです。
【今後の高速乗り合いバスはどうなるか】
高速ツアーバスは、新幹線などの既存の輸送機関と比べ割安である為、20〜30代の若者を中心に人気を集めてきました。低料金に加え、ゆったりしたシートや女性向けの車内サービスなどの工夫を凝らし、既存の輸送機関にないサービスなども人気の原因でした。
今後は料金だけでなく、付加価値をつけたサービスでの差別化が事業者の選択基準になることと思います。安全な運行は当然のことであり、いかに安全を保ち、サービスを向上させていくかが事業者には求められているでしょう。
【規制強化と規制緩和 】
今回の高速ツアーバスの問題もそうですが、タクシー台数の増加による運転者の賃金の下落やトラック業者の事業者数の増加による運賃の下落も、元をたどれば小泉改革の規制緩和にいきつきます。
タクシーの台数制限については、新たな法案が提出されることを先日新聞で目にしました。政府与党は事実上規制緩和にストップをかけたことになります。
規制緩和をして競争原理を導入し、料金やサービスを改善していくという方向性は間違っていなかったと思いますが、過剰な低料金で競争することにより、結果として運転者等の従業員の待遇が悪くなったり、安全が脅かされたのも事実です。
必要なところは規制しなければなりませんが、規制を強くすると競争が発生せずに市場が停滞してしまいます。バランスのとれた規制の舵取りをすることが政府には求められていると思います。
回答者 行政書士 久々宮典義
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