許認可事業のココロエ

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福岡!企業!元気!のための許認可事業のココロエ 《平成28年2月号》
スキーバス転落事故について

 前回、前々回と建設業における技術者についてお知らせしてきましたが、今回は1月15日に発生したスキーバス(貸切バス)の転落事故について急遽取り上げようと思います。
 本コラム執筆時の1月19日で15名の方が亡くなっています。多くが若い大学生であることは大変残念なことです。平成24年に発生した関越道の高速ツアーバス事故の教訓は活かされなかったのでしょうか。国土交通省からの正式な発表を確認できていませんが、マスコミ発表の内容からこの事故についてとりあげてみようと思います。

【事故の概要 】

 1月15日(金)午前1時59分頃、長野県北佐久郡軽井沢町の国道18号線において貸切バスが対向車線をはみ出して崖下に転落しました。
 乗員・乗客41人(運転手2人、乗客39人)中15人が死亡(乗員は2人とも死亡) 、生存者も全員が負傷するという自動車の単独事故では例をみない大事故になりました。

【事業者について】

 一般貸切旅客自動車運送事業者の名称は「株式会社イーエスピー」 、東京都羽村市に営業所があります。報道発表によると、この会社は元々は警備業をメインとした事業者のようで、一般貸切の許可を取得したのは平成26年4月だったようです。

【事業者について】

 国土交通省・関東運輸局から正式な発表がされていないようなので、報道発表の内容をまとめてみると以下のような感じです。なお、特別監査は15日の午後から入っているようです。事故から12時間程で直ちに実施しているようで、3日間実施したようです。
 ・点呼の未実施、偽造(対面の乗務前点呼をしてないのに、実施済と印が押されていた)
 ・指導監督の未実施(安全教育を実施していない)
 ・定期点検の未実施
 ・過労運転(改善基準告示違反)    ・36協定未締結での残業
 ・雇入れ時の健康診断未実施      ・雇入れ時の適性診断未受講
 ・運行記録計の未装着          ・運行指示書の無断変更
 ・運転者台帳の不備           ・運転日報の不備
 ・運賃の基準額を下回る金額で受注
 (上記は一部トラックとバスで用語の違いがあり、正式な名称とは異なることがあります。 )
 なお、この事業者は昨年2月に一般監査を受け、今月13日に行政処分を受けています。
 処分の内容は以下の関東運輸局のHPに公開されています。
 https://wwwtb.mlit.go.jp/kanto/page3/kasikiri/date/27/2801/kashikiri280113.pdf

【私の所感】
 前述のとおりこの会社は新規に貸切バス事業に参入したとのことです。
 新規参入事業者といっても、資格を持った運行管理者がいて、安全マネジメントで配置が義務付けられている貸切バスの経営経験等のある安全統括管理者がいるはずです。事業の経営経験が未熟であることは言い訳になりません。

 これも前述のとおり今回この事業者には3日間の特別監査が入っています。報道ではかなりずさんであることが伝えられていましたが、このように管理がずさんであるから、運転手も安全に対する意識が低くなり事故につながるのです。安全意識が高く法令違反をしないようにきちんとしている事業者は、その意識や会社の方針が運転者に伝わり理解され、事故を起こす確率がかなり低いのが私の実感です。

 この事業者は特別監査により重箱の隅をつつくように徹底的に調べ上げられ、ほぼ間違いなく許可の取消になるでしょう。ここで勘違いしてもらいたくないのが事故を起こしたから取り消されるのではないことです。監査の結果、法令違反事項が基準点を超えるから取り消されるのです。

 ただ、誤解を恐れずに言うと今回の事故は事業者の安全意識やコンプライアンスの問題だけとは言い切れないのではないでしょうか。バス会社は「下請」です。例えば、運賃については旅行会社等から提示された金額で運行するしかありません。 「基準違反なのでその金額では受けられません」と言える事業者がどれだけいるでしょうか? そんなことを言うようなものならどこも取引してくれなくなるのが現状ではないでしょうか。
 この事故も規制緩和により事業者の増加による競争を促し、価格の低下、サービスの向上を求めた結果が遠因ではないかとも思います。
 「安全」に対する対策などは、運送事業者だけに押し付けるのではなく、旅行会社や荷主、我々消費者も意識し、理解しなければならないのではないでしょうか。政府には運送事業者への締め付けだけでなく、国民全体が安全に対する意識を共有できるような施策が求められると思います。

回答者 特定行政書士 久々宮典義
一般貨物運送業 建設業 建設関連業 産廃収集運搬業 宅建業などの各種許認可申請
くぐみや行政書士事務所  特定行政書士 運行管理者(貨物) 久々宮典義
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