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福岡!企業!元気!のための法律ワンポイント 《平成30年3月号》
ITを活用した重要事項説明

〜重要事項説明のあり方の変化〜
 昨今、海外在住者との不動産取引の増加や、業務負担の軽減、依頼者の利便の観点から取引を効率的に行うために不動産取引に関する重要事項説明のあり方が見直されています。今回は不動産取引に関する対面による重要事項説明についてご説明させていただきたいと思います。

そもそも重要事項説明の対面説明義務規定は法律上には存在しない?
 重要事項の説明等について規定されている宅地建物取引業法35条ですが、実はこの規定の中には対面説明に関して明示的に義務付けている規定はありません。現在、対面での重要事項説明が一般化されている背景には、監督官庁である国土交通省から発出された重要事項説明に関する宅地建物取引業法の解釈や運用を根拠として行われているのが実情です。

重要事項説明におけるIT活用によって期待される効果
 対面で行うとされている重要事項説明において、ITを活用することで期待される効果としては、重要事項の説明により地理的な制約がなくなるため、消費者・事業者双方について、従来の取引であれば相対するために要していた時間コストや金銭コストの縮減が期待できます
 特に海外在住者の不動産取引を展開したいと考える不動産業者については、現地に行くための旅費等が発生するため、海外展開を積極的に展開しずらいというのが実情ではないでしょうか。IT活用によって重要事項説明が可能になればそれらのコストの縮減が可能になるのです。

IT化に伴う本人確認の方法の変化
 ITを活用した重要事項説明を行う場合に重要なものの一つが、相手方と対面せずに本人確認をどのように行うかということですが、平成27年5月に発表された国土交通省からのITを活用した重要事項説明に係る社会実験のためのガイドラインによると以下の3つの方法を使うことが記載されています。
 @IT重説を行う以前の段階(物件の現物確認時等)において、顔写真付きの身分証明書の提示を受けることにより、対面で本人確認する
 AIT重説を行う以前の段階で、登録業者から説明の相手方に対して、本人限定受取郵便により、本人しかわかりえない情報(秘密の質問と回答、パスワード等)を送付し、IT重説において、説明の相手方が本人しか知りえない情報を口頭で示す。
 Bテレビ会議等において、説明の相手方から顔写真付きの身分証明証の提示を受けることにより本人確認する。
 利便性から考えればBの方法を使うことが望ましいですが、@と違い身分証明証の現物確認を行わないことから偽造されているかどうかの判別が付きにくいというデメリットがあります。今後どの方法を使ってITを活用した重要事項説明を行うかというのは、現在行われている社会実験の結果によって明らかにされていくと思われます。

重要事項説明IT化に向けての今後のスケジュール
 現在、あらかじめ社会実験に登録した事業者により「法人間売買取引」及び「賃貸取引」においてITを活用した重要事項説明の社会実験が行われていますが、現在は賃貸取引に係るITを活用した重要事項説明が本格運用されています。
 また、今後、社会実験を通じて新たに懸念される点が生じなかった場合は、法人間取引について重要事項説明におけるIT活用の本格運用へ移行するとされています。なお、個人を含んだ売買取引については、個人を含んだ賃貸取引、法人間の売買取引についての検討結果を踏まえて、段階的に運用を行うということですので、今後何らかの展開があるかと思われます。

IT化による不動産業界の変化
 重要事項説明のIT化が実現すれば宅地建物取引士の本社集約を行うことによって営業所の人員の合理化など、コストの縮減が期待できます。また、比較的創業期の企業でもインターネットを活用して、徹底的に効率化を行うことにより安価に物件を探すことができるシステムを構築するなどオンライン特化型ビジネスなどが展開できるようになるかもしれません。

回答者 司法書士 池田 龍太
ロウル司法書士事務所
代表司法書士  池田 龍太
〒810-0054 福岡市中央区今川1丁目10番45号 エムズビル2F
TEL 092-725-4850 FAX 092-510-7245
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