弁理士の高松宏行です。今回は有名なドラッグストア「マツモトキヨシ」のCMの音楽が事実上、商標登録される方向に向かっているというお話を紹介したいと思います。
まず、本件の前提となる法律の話を2点ほどご紹介します。
一点目として、商標は文字のみでなく、音も商標登録の対象になりました(平成27年4月1日施行)。音商標の登録第1号は久光製薬のCMで流れる「ヒサミツ♪」です。その他では、「ブルーレットおくだけ♪」、「ファイトイッパツ♪」があります(♪はメロディを表しています)。登録された音商標に共通するのは、その殆どがCM等で使用されることで全国的に著名である点です。すなわち、音商標の登録が認められるためには、現状では少なくとも著名性が求められています。
二点目として、他人の氏名等を含む商標は、他人の承諾がなければ登録が認められません(商標法4条1項8号)。例えば、「ヤマダタロウ」という商標登録出願を行った際、世の中に存在する全てのヤマダタロウさんの承諾を得る必要があります。
株式会社マツモトキヨシホールディングスは2017年に、CMで使用する「マツモトキヨシ♪」の音商標を出願しましたが、商4条1項8号を理由に登録が拒絶されました。出願人側はこれを不服として拒絶査定不服審判を請求しましたが、特許庁は同様の理由により拒絶審決を下しました。
出願人側は更にこれを不服とし、審決取消訴訟を提起したところ、知財高裁が特許庁の審決を取り消しました。知財高裁が事実上、登録を認めたことになります。
知財高裁の判決によれば、@ドラッグストア「マツモトキヨシ」が全国的に著名であること、Aフレーズも広く知られており、言語的要素からなる音から容易に連想するのは、ドラッグストアの店名で、当該音は一般に人の氏名を指し示すものと認識されるとはいえない、との事です。何れにしろ、他人の氏名等を含む商標であって、且つ、音商標は、登録のハードルが非常に高いということに変わりありません。
音商標でなくても、他人の氏名等を含む商標の登録自体、非常に難しいです。
自己の氏名を商品名・役務名にすることをご検討されている方は、商標登録が認められないかもしれない点に十分ご注意ください。
今月は以上です。
回答者 弁理士 高松 宏行
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