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福岡!企業!元気!のための法律ワンポイント 《令和4年6月号》
おもしろ知財ツアー66

弁理士の高松宏行です。今回はここ最近大きく報じられた「ゆっくり茶番劇」の商標登録問題について、弁理士の立場からお話させて頂きたいと思います。
この問題は、「ゆっくり茶番劇」という動画サービスで用いられる名称を、権原を有しない第三者が商標登録したことに端を発しました。インターネット上で調べると、「ゆっくり茶番劇」とは、東方Projectの二次創作動画のカテゴリーの1つである、とあります。おそらくですが、特定のカテゴリーに属する動画が閲覧できるオンライン上の仮想空間を示すものと思います。今回の問題がどこにあるのか詳しく説明します。

(1)第三者の権利取得に至るまでの行為について
商標登録出願後、特許庁の審査をクリアすれば登録査定が通知されます。そして、登録料を納付することで商標権が発生します。この一連の行為自体は、出願内容の如何にかかわらず誰でもできます(但し弁理士でない者が出願代理を行うのは違法です)。つまり、出願行為自体を制限する条文はありません。

(2)第三者のライセンス料を求める行為
商標権が存続する以上、商標権者は使用を欲する者に対してライセンス料を求めることができます。但し、今回のケースは不正目的を推認できる余地があるので、無効理由が存在する可能性があります。

(3)弁理士の対応について
弁理士は通常、商標登録出願の依頼を受けたとき、先行調査を行います。先行調査は、既に出願もしくは登録されている同一又は類似の商標がないかをメインにするケースが多いです。商標名を検索エンジンにかけて調べることも行いますが(義務ではありません)、ヒット件数で周知か否かを判断するのは非常に難しいです。弁理士が行った調査についてかなりの批判が浴びせられていますが、周知性の有無の判断はきわめて難しく、明確な線引きもないため、多くの批判の声は個人的に残念に思います。調べた結果、今回の商標は出願しても登録になる見込みがないですと弁理士が案内したとして、それでも出願してほしいと相談者から要望されたならば、それを断ることも難しいです。

(4)特許庁の対応について
出願された商標は、特許庁審査官により審査されます。審査は、同一又は類似する先顔先登録商標がないか、他人と出所の混同を生じさせるおそれがないか、不正目的での出願ではないか、公序良俗に反していないか、等々、様々な方向から調べます。審査官は、「ゆっくり茶番劇」がそのような事由に該当しないと判断したものと推察します。

(5)誤って登録された場合の救済措置について
調査する弁理士も審査を担当する審査官も同じ人間で、誤った判断をすることは十分にあり得ます。そのような時のために、登録異議申立や無効審判の制度があります。これらの制度を利用することで、商標権を取り消し、無効にすることができます。

(6)今回の問題について
私の知る限り、今回の件は違法行為が行われていません。過誤登録に対する救済措置(登録異議申立、無効審判)もあります。
問題は現行の法制度にあると考えます。
現行法では誰もが気軽に商標登録出願することができます。出願行為自体を規制することは難しいですが、実際に使用していることを示す客観的な証拠の提出、使用していなくても将来的な使用予定を示す客観的な資料の提出、ブローカー目的での出願でないことを宣誓した書面の提出、といったものを義務付けた方がよいかもしれません。
また、登録異議申立は印紙代なしで行えるのが非常に良い点ですが、商標が公報に掲載された日から2カ月以内に行わなければならないため、この期間を半年以上に延ばし、申請方法も簡単にすることで、申請者の金銭的・時間的な負担を軽減する措置を講じてもよいと思います。

 今月は以上です。

回答者 弁理士 高松 宏行
高松特許事務所
弁理士 高松 宏行
〒810-0041 福岡県福岡市中央区大名2-4-30 西鉄赤坂ビル7F
電話092-711-1707 FAX 092-711-0946
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