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福岡!企業!元気!のための法律ワンポイント 《令和6年3月号》
おもしろ知財ツアー87

弁理士の高松宏行です。昨年に放送されたTVドラマの原作者が脚本を巡ってトラブルになった事件が世間で注目されています。この事件を受けて、専門家がニュースやワイドショーなどで著作権を解説する機会が増えておりますが、私からも簡単に説明したいと思います。
まず、著作権は大きく分けて、著作財産権と著作者人格権の2種類があります。大前提として、これらの権利は創作者に原始的に帰属します。

著作財産権は複数の個別的な権利の集合体で、分かり易いところでいうと複製権、上映権、公衆送信伝達権などがあります。
複製権とは、著作物を印刷、録音するなどして、有形的に再製する権利をいいます。
上映権とは、著作物を公衆に対してスクリーンなどを通じて映写する権利をいいます。
公衆送信権とは、著作物をサーバに置き、公衆からのアクセスを受けて自動送信する権利をいいます。著作物を放送する権利もこれに含まれます。

著作財産権は譲渡できる性質を有します。原作者は著作財産権を譲渡することで、金銭的な対価を得ることができます。TVドラマなどを制作するに際しては、原作者は一部の著作財産権を出版社経由でテレビ局に譲渡し、その対価を得ているものと推察します。皆さんが思い描く著作権は、著作財産権と思われます。

著作者人格権とは、著作者だけが持つことができる権利であり、公表権、氏名表示権、同一性保持権の3つの権利から成り立っています。
公表権とは、著作者が自分の著作物を公表することができる権利をいいます。公表日なども自ら決めることができる権利です。
氏名表示権とは、著作物を公表するに際し、著作者名を表示するかしないかを決定することができる権利です。表示する際、ペンネームで公表することも選べます。
同一性保持権とは、著作物の内容を勝手に改変されないための権利です。

著作者人格権は著作財産権と異なり、第三者への譲渡は一切できません。今回のTVドラマ事件は同一性保持権の侵害が疑われ、著作者(原作者)の同意なく脚本を原作から変更する行為は、同一性保持権の侵害にあたる可能性が十分にあります。
なお、契約書で「同一性保持権の行使を放棄する」との条項を入れても、法律的には無効であるとお考え下さい。
もう一つ問題なのは、著作者人格権の侵害訴訟の場面においては、精神的苦痛を損害額に換算して賠償を求めることになるので、損害額の算出が非常に困難であるとともに、賠償できたとしても少額になる可能性が高いという点です。訴訟費用と賠償額を比較考量すると、訴訟は現実的でなく、泣き寝入りせざるを得ないケースが殆どではないでしょうか。
原作者をより強く保護する法改正が望まれます。

 今月は以上です。

回答者 弁理士 高松 宏行
高松特許事務所
弁理士 高松 宏行
〒810-0041 福岡県福岡市中央区大名2-4-30 西鉄赤坂ビル7F
電話092-711-1707 FAX 092-711-0946
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