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福岡!企業!元気!のための法律ワンポイント 《令和6年7月号》
おもしろ知財ツアー91

弁理士の高松宏行です。今回は6月に行われた栃木県鹿沼市長選で、とある候補者の陣営が配布したチラシ中に描かれたイラストが、人気漫画「スラムダンク」の映画ポスターに酷似している、と世間を騒がせた騒動について、著作権法の観点から解説したいと思います。比較対象となるイラストのそれぞれはキーワード検索で簡単に見つかりますので、各々でご確認ください。

映画ポスターと候補者チラシを対比すると、赤いユニフォームを着た5人の男性が似たような立ち姿をしていますが(全く同じとは言い難いです)、顔がすり替えられています。背景のゴシック文字の表示も似ていますが、文字は異なります。世間一般的な視点でみると、両者は似ているという意見の方が一定数いると思います。

著作権(著作財産権)には複製権、公衆送信権など、複数の個別的な権利が存在しますが、本件はそのうち「翻案権」が問題になると思われます。著作権法の第27条には、翻案権について、「著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。」と記載されています。より簡単に述べると、翻案とは、特定の著作物を用いて新たな著作物(二次的著作物)を創作することで、原著作者に無断で二次的著作物を創作した場合は原著作者の翻案権の侵害に該当し得ます。

「翻案」について、最高裁では「既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為」で「表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案には当たらない」と判断しております(江差追分事件(最高裁平成13年6月28日判決))。
つまり、対象物について、依拠性(意図的に真似ていること)があること、及び、創作性のある表現について同一性があり、元の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できると認められる場合には、翻案に該当するといえます。

映画ポスターと候補者チラシが共通しているように見受けられる点は、人数、各人の立ち姿勢、各人の配置、赤いユニフォーム、背景の文字の表示方法が挙げられます。私の見解では、創作性のある表現について同一性はなく、翻案権の侵害には該当しない可能性の方が高いと考えます。バスケットボールは5名で行われること、ゼッケン付きの赤いユニフォームは珍しくないこと、ユニフォームに付されてある文字が地名であること、立ち姿勢も一定程度の相違点が見受けられること、等がその理由です。

今回の選挙候補者側で宜しくないと思ったのは、ニュース記事の情報ではありますが、著作権については全く意識していなかったということです。候補者チラシをリリースするときに、著作権について一言触れているか、原著作者側と話し合い済みであることを添えていれば、ここまでの大きな問題にはならなかったと思います。
有名な作品をモチーフにして著作物(いわゆるパロディ)を創作する際にはくれぐれもご注意ください。
 今月は以上です。

回答者 弁理士 高松 宏行
高松特許事務所
弁理士 高松 宏行
〒810-0041 福岡県福岡市中央区大名2-4-30 西鉄赤坂ビル7F
電話092-711-1707 FAX 092-711-0946
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