【初めに】
今回は、成年後見制度に付随する「後見制度支援信託」と一般の方も利用されている通常の「信託」との違いについて、概略から簡単にお話させていただければと思っています。
【後見制度支援信託とは?】
後見制度支援信託は、後見制度による支援を受ける方(ご本人)の財産のうち、日常的な支払いをするのに必要十分な金銭を預貯金等として後見人が管理し、通常使用しない金銭を信託銀行等に信託する仕組みのことを言います。普段、ご本人に年金やその他の収入があり、生活費(食費・水道代・電気代等)はその収入自体でまかなえていれば、赤字になることはありませんので、すでにある預貯金に関して、信託銀行で管理してもらう、ということです。
この制度は、成年後見(法定後見の分類の一つで程度が一番重いもの)と未成年後見において利用することが出来ます。逆を言えば、法定後見の分類の「保佐」「補助」及び任意後見にあたる人は利用することが出来ません。もちろんではありますが、信託財産は元本が保証され、預金保険制度の保護対象にもなりますので、ご安心下さい。
この後見制度支援信託を利用すると、信託財産を払い戻したり、信託契約を解約したりするにはあらかじめ家庭裁判所が発行する指示書が必要になってきます。(適切な信託財産の管理のため)財産を信託する信託銀行等や信託財産の額などについては、原則として、専門職の後見人がご本人に代わって決めた上、家庭裁判所の指示を受けて、信託銀行等との間で信託契約を締結します。(ご本人のご親族を交えたお話合い、あるいは報告等も当然、事前に行います)また、どのような財産が後見制度支援信託の対象となるかというと、「金銭」に限られます。不動産や動産は、後見制度支援信託を利用することを目的として処分や売却することを想定していませんのでご注意下さい。
【通常の信託とは?】
そもそも「信託」とは、ある人(委託者)が信託契約や遺言によって、信頼できる人(受託者)に対して、自身が持っている金銭や土地等(不動産・動産等)といった財産を名義ごとに移転し、受託者が委託者の設定した目的(信託目的)に従って、委託者の指定する人(受益者)にためにその財産(信託財産)の管理・処分その他の必要な行為をすることをいい「信じて託す」の文字どおり、受託者との間の高い信頼関係に基づく制度です。日本においては「信託法」という法律によって信託制度の一般的な規定が定められています。信託を利用することで、受託者の持つ専門性を活かした資産運用や財産の安全・確実な保全などを実現することが出来ます。信託の機能を活用した例は、以下のとおりです。
○遺言信託:遺言信託とは、遺言者の財産を信託銀行に委託し、その財産の管理・運用を任せる制度です。通常は、ご自身の思いを指定した親族に確実に譲り渡すために利用されますが、近年では、ご自身の財産を世の中のために使いたい、と思われている方などが、信託銀行に社会貢献マネーとして、例えば自然環境保護に取り組む団体や子供のサポートに関する団体、奨学金を管理している団体などに、ご本人が亡くなった後に、その財産をつなげていく取り組みなども行われています。
○公益信託:個人が公益(社会的な利益)目的のために財産を提供しようという場合や法人が利益の一部を社会に還元しようという場合などに、信託銀行に財産を信託し、信託銀行があらかじめ定められた公益目的に従って、ご本人の財産を管理・運営することにより目的の実現を図る制度です。
信託は、ご本人の状態(後見制度の利用の有無)によっても利用する時に、内容が違ってきますので、気をつけて利用されて下さい。
回答者 行政書士 和田 好史
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