【身元保証書の有効期間】
身元保証書に関しては、「身元保証ニ関スル法律」という古い法律(昭和8年施行)
が生きています。
今でも戦前のままの表現で、漢字とカタカナで表記されています。
以下、「法」と略します。
法は、身元保証契約の存続期間について次の通り定めています。
@ 有効期間を定めなかったときは、原則3年間
A 有効期間を定めるときは、最長5年間
身元保証契約は、自動更新の定めをしても無効です。
従いまして、採用時に提出さ
せる身元保証書に「自動更新の定め」をしていたとしても、当初の有効期間満了をも
って効力を失います。
期間を延長したいときは、改めて更新の手続(再度身元保証書
を提出させること)が必要です。
貴社の場合、採用時に身元保証書を提出させてますが、従業員が勤続10年目という
ことは、有効期間の定めの有無を問わず、採用時の身元保証書は既に失効しています。
結論として、残念ですが身元保証人に対して請求することはできません。
【身元保証書の期間延長】
今回は残念ですが、今後の対策を考えてみます。
まず、採用時に身元保証書を提出させる場合は、有効期間が5年と明記されている
か確認して下さい。
何も記載がなければ有効期間3年となります。
逆に「10年」と書
いても無効です。
この場合も5年とみなされます(法2条1項)。
次に、有効期間満了後について、再度身元保証書を提出させるかどうか、検討する
ことになります。
提出させる場合は、就業規則の規定も必要でしょう。
一般的には、
身元保証書失効後に再提出を求める事業所は、少数派のようです。
しかし、経理担当
者等が事業所の金銭を横領する事例では、何故か勤続5年〜10年程度の「慣れた」従
業員が多いようです。
従って、少数派だからといって、再提出させる必要がないと言
っているわけではありません。
可能なら、再提出させた方が良いに決まっています。
【身元保証書の効力】
身元保証書の効力、実はとても弱いです。
「連帯保証人」のようなイメージをお持ちの方がいらっしゃいますが、全く違いま
す。
連帯保証人は、借金する本人と全く同じ責任を負わされますが、身元保証人はそ
うではありません。
裁判例では、事業所の損害の半額とか4分の1程度の責任を負う
水準のようです。
さらには、身元保証人に責任が及びそうな場合には事業所は通知し
なければならず(法3条)、なんとこの通知を受けた身元保証人は、身元保証契約を解
除できるのです(法4条)。
その上、身元保証法に反する特約で身元保証人に不利益な
ものは、すべて無効とされてしまいます(法6条)。
では、身元保証書を出させる意味がないではないか、と思いますが、法律上はほぼ
その通りといえるでしょう。
しかし、身元保証契約の解除権行使等は、法律を知らな
ければ思いつきませんし、その結果、半額とか4分の1とかでも回収できている事例
があるわけです。
事実上は、
@身元保証人を依頼する相手が存在する人間であることを確認すること、
A身元保証人に迷惑をかけてはならないという抑止力が働く可能性がないとはいえな
いこと、
等が身元保証書を提出させる大きな意義といえるでしょう。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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