【解雇の意思表示】
最初に確認しておきたい事項は、「解雇は事業所の意思表示が本人に到達したときに効力を発する」ということです。
逆にいうと、いくら解雇しようとしても、その解雇通知が本人に届かないのであれば、解雇の効力が発生しないということです。
今回のケースでは、連絡がとれないわけですから、少なくとも会社に呼び出して解雇通知する方法や、電話で伝えて解雇通知を送付する方法等では、解雇通知ができないと思われます。
まずは、自宅に訪ねてみて、そこで面談できるかどうか確認してみる必要があります。
もし自宅に訪ねてみても居留守を使うなど結果として面談ができない場合は、解雇通知が極めて困難な状況といえます。
最終手段として、裁判所書記官による公示送達が考えられます。
公示による意思表示は、2週間経過することで、意思表示が相手方に到達したとみなされます。
解雇通知一つのためには、あまりにも煩雑な手続となりますが、解雇するのならこうせざるを得ないでしょう。
さらに、意思表示が到達したとしても、その時点で即時解雇するのであれば、原則として平均賃金30日分以上の解雇予告手当を支払う必要があります。
これを支払いたくないのであれば、30日前の解雇予告をすることになります。
【解雇以外の選択肢】
以上の通り、解雇するのもかなり大変です。
そこで、「突然来なくなった」という行為について、「黙示の退職意思表示」と解釈し、自己都合退職で処理してしまうという考え方も認められる可能性もあります。
もし突然来なくなると同時に、たとえば会社の鍵や制服等を置いて行っている等、退職の意思表示と解釈することを補強する行為があれば、認められる可能性はさらに高まります。
特に何もない場合は、既に1週間経過していますが、できれば2週間経過してから退職処理をした方が無難でしょう。
もちろん、このように突然来なくなった方が、後日「退職した覚えはない」と主張する可能性は低いとは考えますが。
【就業規則による予防】
実際には、このような場合に備えて、就業規則に退職事由として、「行方不明その他連絡がとれなくなり、2週間を経過したとき」と規定しておくべきです。
このような規定があれば、突然来なくなって2週間経過することで、機械的に退職扱いで処理することが可能となります。
実務上、この方法によって予防しておくことは、絶対に必要だと考えられます。
【関連事項】
突然来なくなるケースには、中には非違行為があり、それを秘匿したまま消えていく場合があります。
積極的な非違行為がない場合でも、本来会社に返還しなければならないものや情報を持ったままになってしまう場合は非常に多いようです。
突然来なくなったときは、本人が担当していた業務に関して調査等は行うべきといえます。
最低でも二次被害はできる限り予防したいところですし、中には本人に対して損害賠償請求をすべき場合も考えられます。
突然来なくなる労働者とは、社会人として問題がある労働者です。
残念ながら、疑ってかからざるを得ないのです。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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