【労働基準法による災害補償義務】
労働基準法は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかったときについて、次の災害補償をすることを義務づけています
@療養補償:療養の費用の負担
A休業補償:平均賃金の60/100の賃金の補償
B障害補償:障害の程度に応じた費用の補償
C遺族補償:平均賃金1000日分の遺族への補償
D葬祭料:平均賃金60日分の葬祭料
【災害補償保険制度(労災保険)】
労働基準法で災害補償が義務づけられていますが、もし事業主が災害補償をしなかったり、又はしたくてもできなかったら、被災労働者は現実として補償が受けられないことになります。
反対に、事業所にとっても、突然発生した事故に対して災害補償義務を負うことは、事業の健全な運営に大きなリスクを抱えていることといえます。
そこで、労働基準法の災害補償義務について保険制度を導入し、法律上強制加入としたのが労災保険制度です。
従って、労災保険制度の目的は、労働基準法が定める災害補償義務を確実に履行すること及び事業所のリスクを抑制することです。
【民事損害賠償】
業務災害は、事業所の安全配慮義務(又は健康配慮義務)違反の結果生じた災害とされています。
即ち、加害者は事業所、被害者は労働者、ということです。
このことから、民法の規定により、労働者は、債務不履行責任又は不法行為責任に基づく損害賠償請求が可能となります。
労働基準法の災害補償義務は最低限のものであり、民事損害賠償の計算方法と異なります。
ここに、労災保険から給付があっても、事業所がさらに追加して補償しなければならないリスクがあるのです。
代表的な例を挙げれば、労災保険には慰謝料の給付がありませんが、民事損害賠償請求を受ければ、当然慰謝料の問題が生じます。
【民間保険の活用】
以上の通り、労働基準法と民法とでは、災害補償(損害賠償)の計算基準が異なります。
従って、労災保険だけではすべての補償ができない可能性があるため、民間保険会社の保険に加入することでリスク回避する事業所が多いのです。
民間保険に加入する場合、「傷害保険」で対応するケースがよく見受けられます。
労災認定の有無を問わず、傷害による死亡、入院、通院等をスピーディに補償することから、使い勝手は良い保険です。
しかし、事業所が責任を負う業務災害とは、「業務上の負傷又は疾病」です。
傷害保険では、業務上の疾病について1円も保険金は給付されません。
過労死や鬱病等心の病に起因する自殺等が業務災害と認定されるケースが増加傾向にありますが、この場合は全く役に立ちません。
民間保険を検討する場合は、「業務上の負傷又は疾病」のすべてをカバーする保険であることを前提とする必要があります。
その上で、補完的に傷害保険に加入するのはもちろん自由です。
法定外労災保険、使用者賠償責任保険等であれば「業務上の負傷又は疾病」を補償しますので、まずはこれらの民間保険制度の加入をご検討下さい。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
|