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福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《平成23年8月号》
通勤手当について
  質 問

【質問者】
 病院経営者

【質問内容
 当院は、内科クリニックです。
 職員は、看護師4名、受付事務2名の6名です。
 職員に対し、公共交通機関の1カ月定期券代相当額の通勤手当を支給しています。
 しかし、看護師の一人(通勤片道5q)が自転車で通勤していることが発覚しました。
 その看護師を採用した際に、通勤手段として地下鉄を利用するということだったため、1カ月定期券代を支給していたのですが、確認したところ採用から3カ月くらいたってからは、自転車通勤に変更していたそうです。
 既に、変更して3年くらい経過 しています。
 遡って全額返還させたいと考えていますが、法律上問題ないでしょうか。

  回 答

【通勤手当】
 法律上、事業所は、通勤手当を支給する義務はありません。
 しかし、就業規則等で通勤手当を支給することを規定したり、個別労働契約で通勤手当を支給することを約  したときは、その規定や契約に従って支給する義務を負います。
 通勤手当は、労働法上は賃金に含まれるため、雇用保険料や社会保険料の対象となります。
 一方、税法上は非課税枠が定められており、一定の範囲内であれば非課税となります。

【就業規則と通勤手当】
 一般的に、通勤手当については、就業規則で定めます。
 もともと支給する義務がない手当なので、定め方は原則として自由です。
 従って、個別の通勤手段を問わず、全員に対して1カ月定期券代を支給するとしても構いませんし、通勤手段や距離にかかわらず一律○○円という定め方をしても構いません。
 もちろん、定めた内容に従って  支給する義務を負うことになります。

   ※ 一律支給する場合、その金額が所得税法上の非課税限度額を超過する場合は、通常の基本給や諸手当と同様に超過部分は課税給与となります。

 逆に、「片道○q以内の場合は不支給」、「上限○○円」等の定めをすることもできますし、あまり例はないと思いますが、「勤続○年以内は不支給」、「看護師に限って  支給し、受付事務には支給しない」等とすることも違法ではありません。

【ご質問の前提】
 既述の通り、通勤手当は、法律上の義務ではなく、就業規則や個別労働契約で定められるものです。
 ご質問に回答するために、貴院の就業規則や個別労働契約を確認す  る必要がありますが、不明です。
 そこで、前提条件として、次の3パターンの個別労働契約があった場合について回答したいと思います。
 A契約:支給対象者は、公共交通機関を利用して通勤する者に限る。
 B契約:支給額は、1カ月定期券代相当額とする。
 C契約:自転車により通勤する者に対しては、非課税限度額を支給する。

【ご質問への回答】
 A契約の場合、自転車通勤者は、通勤手当の支給対象者となりません。
 従って、通勤手段変更後に受給した通勤手当は全額不当利得であり、遡って全額を返還させるこ  とが認められます。
 B契約の場合、支給対象者について定めがなければ、通勤手段にかかわらず1カ月定期券代を支給すると解釈されるため、通勤手当の返還を求めることはできません。
 C契約の場合、非課税限度額は月額4,100円です。
 この場合、1カ月定期券代との差額が不当利得となりますので、差額を遡って返還させることが認められます。
 ちなみに、賃金の時効は2年ですが、不正受給した通勤手当は賃金ではなく不当利得なので、民法の一般原則が適用され、時効は10年となります。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
810-0041福岡市中央区大名2-10-3-シャンボール大名C1001
TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
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