【原則】
健康保険は、業務外の事由による疾病等に関して保険給付を行うこととされています。
従って、業務遂行の過程において業務に起因して生じた傷病は、健康保険の給付対象となりません。
一方、法人の代表者等は、原則として労働基準法上の労働者に該当しないため、労災保険に基づく保険給付も行われません。
以上の通り、法人の代表者等が業務上被災した場合は、労災保険が使えないだけで
なく、健康保険も使えないのです。
わが国の公的医療保険制度は「国民皆保険」をうたっていますが、実態は「労働者皆保険」です。
経営者はこの場合の「国民」に含まれていないのです。
【特別加入制度】
経営者が業務上被災した場合は、既述の通り労災保険からも健康保険からも給付が受けられません。
即ち、全額自費診療となります。
しかし、一般の労働者と同様に労働している経営者も存在することから、労災保険の特別加入制度が設けられています。
特別加入制度とは、労働者と同様に労働していることを前提に、希望する者が加入できる労災保険制度です。
加入要件として、労働保険事務組合の会員となる必要があります。
貴社の場合、特別加入されていないので、労災保険給付が受けられる可能性はありませんが。
【健康保険の例外】
以上の通り、わが国の医療保険制度には、大きな欠陥があります。
しかし、国民皆保険のはずが無保険として取り扱われた複数の経営者が不服申立を重ねた結果、部分的に健康保険制度の例外を認める次の通達が出されました(保発0701002平15.7.1)。
被保険者が5人未満である適用事業所に所属する法人の代表者等であって、一般の従業員と著しく異ならないような労務に従事している者については、その者の業務遂行の過程において業務に起因して生じた傷病に関しても、健康保険による保険給付の対象とすること。
被保険者数は、従業員数ではなく、健康保険の被保険者数を言います。5人未満とは、言い替えると4人以下です。
このような小規模の事業所の場合は、労災保険特別加入をしていないことを前提に、健康保険給付が受けられるのです。
貴社の場合、従業員数2名ですから、健康保険被保険者は社長を含めて3名と思われます。
もし社長の配偶者が被保険者であっても4名で、ギリギリ「5人未満」です。
結論として、健康保険による給付が受けられるということです。
一言で健康保険給付といっても、様々な種類の給付があります。
その中に、所得補償を目的とする傷病手当金制度があります。
傷病のため休業し、その期間の賃金が受けられない場合に、標準報酬日額の2/3を給付する制度です。
被保険者数5人未満の事業所の代表者であっても、業務災害時は傷病手当金制度は対象とならないことが、同通達で示されています。
このことは、ついでに覚えておいた方がよいでしょう。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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