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福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《平成25年3月号》
出勤停止処分の最長期間
  質 問

【質問者】
 販売業(正社員15 名、パート25 名)

【質問内容】
 当社は、各種商品の卸売及び小売を業とする会社で、従業員数は正社員15 名、パート25 名の40 名です。
 最近一部風紀が乱れ、就業規則違反を犯す従業員も見受けられることから、真面目な従業員を中心に懲戒規定の厳罰化を望む旨申入れがありました。私もこの意見に賛成で、従業員数名と一緒に規定の改定案を作成している途中です。
 現在、懲戒処分の一つに「出勤停止処分」をおいており、上限を7 日間としております。多くの従業員は、懲戒事由となる行為等の内容に応じて決めればよいのだから、上限は1 年くらいとすべきという意見でまとまっています。不利益変更であることは理解していますが、そもそも出勤停止処分を最大1 年とすることはできるのでしょうか。もしできない場合、最大どのくらいの期間までなら認められるのでしょうか。

  回 答

 【就業規則の変更】
 懲戒規定の変更は、その内容が厳罰化であれば、就業規則の不利益変更にあたります。不利益変更の場合、変更の必要性、変更後の規定の相当性、労働者が受ける不利益の程度、労使協議の状況等から、その当否が判断されます。もっとも、すべての労働者が変更に合意しているのであれば、このような問題になることはありません。
 貴社の場合、従業員が中心となって規定の変更案を作成しているようですから、可能り全員に合意してもらう方向を目指すことが第一となるでしょう。

【出勤停止処分】
 ご承知の通り、出勤停止処分とは、一定期間の出勤を禁じ、その期間の賃金を支給しないという懲戒処分です。出勤停止処分は、客観的に合理性が認められ、しかも出勤停止処分とすることが相当である懲戒事由が前提ということになります。
 国家公務員の出勤停止処分ともいえる「停職処分」は、国家公務員法83 条1 項により、「1 年を超えない範囲内」とされている事実があります。民間事業所においては明  確な法律はありませんが、行政解釈は、公序良俗の見地から情状の程度等による制限があるべきとしています(昭和23.7.3 基収2177)。ちなみに労働基準法の前身とされる戦前の工場法時代には、行政解釈で明確に「7 日を限度」とありました。

【私見】
 以上の通り、現行法令上は、明確な上限に関する定めはありません。従って、就業規則において出勤停止処分の上限を1 年と規定することのみで違法とされる根拠もありません。この意味では、回答は「可能です」ということになってしまいます。
 しかし、規定する以上は、実現可能性を伴う必要もあります。通常の労働者に対し、仮に一年間の出勤停止処分とすると、その労働者の生活は成り立つでしょうか。行政解釈が「公序良俗の見地」としていることからも、厳しいように感じます。一方で、旧工場法時代の7 日は、貴社の現行規定と合致しますが、これを上限とするのは短く、上限として設定する下限の期間と考えて差し支えないと考えます。

 出勤停止処分より一つ重い処分として、「懲戒休職処分」を定めている事業所が存在します。この場合、通常1 カ月〜 3 カ月程度の期間が定められています。また、最高裁判例で、20 日間の出勤停止処分を認めた例もあります(ダイハツ工業事件、最高裁昭和58.9.16 判決)。  以上から、私見は、出勤停止処分の上に懲戒休職処分がないことを前提に、上限は20日から3 カ月くらいまで検討可能と思われます。一方で、中小企業において、3 カ月の出勤停止処分は本人の生活に深刻な影響を与える可能性が高いことも考えると、公序良俗の見地からどうかという気もします。従って、回答として、1 カ月を上限に検討していただきたいとしつつ、どうしてももっと長くしたいということであれば3 カ月が限度かと考えます。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
810-0041福岡市中央区大名2-10-3-シャンボール大名C1001
TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
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