【労災保険とは】
労働基準法によって、業務中の事故等による負傷、疾病、死亡等に対し、事業主に対して補償義務が課されています。単に治療費等だけでなく、障害等が残った場合の障害補償、死亡した場合の葬祭料、遺族補償等が規定されています。しかし、万一大きな災害等があった場合等で事業所の補償能力がない場合は、労働者は泣き寝入りとなる可能性があります。そのため、このようなことにならないよう確実に補償が受けられることを目的に、労災保険制度が設けられています。
労災保険とは、『労働者災害補償保険』の略称です。その確実な補償という目的を達成するため、労災保険は労働者を1 人でも雇用したら、法律上強制適用となります。
強制適用ですから、労災保険関係は、法律上「当然に」成立します。貴社のように、労災保険に「加入していない」ケースを「未加入事業所」と言ったりしますが、厳密に言えばこの表現は正しくありません。何故なら、法律上当然に労災保険が適用されるわけですから、厳密に言えば労災保険の手続をしていないだけであり、労災保険に加入していないというわけではないからです。考え方として、最初に雇用した時点で特に何もしなくても当然に労災保険は成立し、その後労災保険関係が成立したことを届け出るしくみなのです。
【健康保険の補償範囲】
今回、健康保険の利用を考えているようですが、健康保険は業務災害の治療には使用できません。健康保険の保険対象は、「労働者の業務外の事由による疾病、負傷若しくは死亡又は出産」とされています(健康保険法1 条)。迂闊に健康保険を利用すると、後日費用返還を求められることになります。
以上から、健康保険は使用できません。
【労災保険請求】
業務災害については、すべて労働基準監督署に報告をしなければならないとされています。今回の事故についても該当します。この報告をしないことを「労災隠し」といい、もちろん違法です。
業務災害の報告は、原則として労災保険の「療養の給付」の請求書を提出することで行います。提出先は、受診している病院の窓口です。貴社の今回のパートさんについても、この手続が必要になります。言い替えると、パートさんの補償については、未届であっても労災保険が適用されるということです。
【届出前の災害】
貴社の場合、今年1 月に労災保険関係が成立しましたが、その届出前に業務災害が発生した状態になります。従って、療養の給付の請求書を病院窓口に提出する前に、大至急所轄労働基準監督署又は社会保険労務士に相談して下さい。労災保険関係成立届及び保険料申告が必要となります。
貴社の場合はまだ保険関係成立から半年程度で、特に悪質でもないと思われますので、今回は特にペナルティはないと思われます。労働基準監督署から手続の督促を受けていた場合、労働保険料の滞納がある場合等は、ペナルティとして、労災保険制度が給付に要した費用の一部をその事業主から徴収する制度があります。
今回の事故を機に、今後は正しい届出等を心がけて下さい。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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