【ノーワークノーペイの原則】
賃金の基本原則は、実際に働かなかった時間については賃金は支払われないという考え方です。ノーワークノーペイの原則といいます。少しややこしいのですが、実際に働かなかった時間であっても、事業主の指揮命令下にある時間については原則として労働時間と解され、賃金支払い対象となります。
営業マンに対して客先訪問による営業を命じたにもかかわらず、本人が命令に反して勝手にサボっている時間は、賃金支払い対象とはなりません。従って、ご質問の前提でもありますが、実際に働いていなかった時間の賃金の返還を求めることは可能だと思われます。
【根拠となる労働時間】
不就業時間に対して、賃金を支払わないことは当然ですが、既に支払ってしまった場合であっても、返還を求めることは可能です。ここで問題となるが、不就業時間である「時間数の確定」です。
賃金計算は、1 分単位を基礎とします。しかしながら、自宅でサボっていた時間数を本人が記録していることはないでしょうし、結論として具体的に確定的な時間数は不明です。不明の場合、不明のまま適当に控除して良いかというと、これも問題です。もし本人が異議を唱えた場合、貴社が控除した額について計算根拠がないためです。
【対応方法】
この場合、本人に確認するしかありません。具体的には、サボりについて、@いつからか、A 1 日あたり何時間か、B毎日か又は毎月何回か、等を確認し、回答があったら書面に書かせます。書かれた期間中の回数や時間数を計算し、不就労時間数を確定させ、その時間分の賃金の返還を求めることになります。一般的に、本人は少なめに申告しますが、それでもいったんは書かせて、その後再度疑問点等を投げかけて書き直すような流れが良いかと思われます。
もし書かない場合は、少し荒っぽいですが、本人は既にサボりを認めているわけですから、話しの中でだいたいどの程度かを確認又は推測し、その時間数で返還を求めるしかないでしょうね。ただ、支払いを拒否された場合、請求額に根拠が乏しく、認められない可能性が高いでしょう。さて、本人が認めた時間数で返還を求めた場合でも、既に退職の意思表示をしていますし、支払いに応じないことも考えられます。この場合、貴社としてどこまで取立をするかという別問題になります。
以上の通り、サボり時間の賃金返還はかなり面倒ですし、取りっぱぐれのリスクも高いです。今回は長期間発覚しなかったことが問題です。日頃から、従業員の業績や態度の変化等があったときは、 その都度確認等ができる体制とすることが望まれます。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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