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福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《平成26年3月号》
ツアー添乗員の残業代
  質 問

【質問者】
 旅行代理業(正社員 3 名、パート 1 名)

【質問内容】
 当社は、旅行代理業を営む株式会社です。正社員が営業や手配等を行い、お客様のツアーにおいては添乗員も勤めます。繁忙期等は、添乗員は外部に委託することもあります。
業種の都合上繁閑の差もそれなりにありますが、給与に固定残業代を組み込み、繁忙期は固定残業代を超える残業代は追加で支払っています。添乗員として業務にあたる日については、別途日当を支給しますので、残業扱いにはしていません。
今回、正社員の一人から、日当は残業代ではないので、残業代を支払って欲しいと言われました。しかし、これは事業場外みなし労働時間制でその日は所定労働時間労働したとみなされるため、残業代がない代わりに日当を支払っているという認識でおりました。当社は、添乗業務に対しても労働時間に応じて残業代を支払う必要があるのでしょうか。

  回 答

 【事業場外みなし労働時間制】
 事業場外みなし労働時間制については、労働基準法に規定されています。

 労働基準法第 38 条の 2 第 1 項(抄)
 労働者が労働時間の全部又は一部を事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。

 貴社の添乗員にみなし労働時間制を適用して良いかどうかは、 「労働時間を算定し難いとき」に該当するかどうかということになります。また、仮にみなし労働時間制の適用が可能であっても、添乗業務の通常必要とされる労働時間が所定労働時間を超えていないかどうかという問題もあります。
 みなし労働時間制の対象について、行政解釈は、 「事業場外で業務に従事し、かつ、使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間を算定することが困難な業務であること」としています。そして、例示の一つに、 「事業場外において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的な指示を受けたのち、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後事業場にもどる場合」を対象外としています。宿泊を伴わない業務を想定していますが、添乗員の業務も旅行先でスケジュールに従って行動する点でこれにあたりそうです。

 【最高裁の判断】
 参考となる判例があります。これによると、添乗員に対してはみなし労働時間制が適用されず、時間外労働割増賃金の支払い対象となるとされました(阪急トラベルサポート事件、最高裁平成 26 年 1 月 24 日判決) 。
 判例は個別具体的な事案に対する判断なので、貴社の場合も絶対に同じとは言いませんが、 ほぼ間違いなく添乗業務はみなし労働時間制の対象外となると考えられます。しかも最高裁は、旅行のお客様の自由時間についても、急な対応等が必要とされているため労働時間に当たると示しています…

 【日当の見直し】
 貴社は添乗業務に従事した日に対して、日当を支給しています。残念ながら、日当として支給している以上、残業代として支給したとは認められないと考えられます。もし可能なら、日当に代えて残業代として支給できるしくみとすべきでしょう。
運用上困難なのが、労働時間の把握です。これについては、旅行スケジュールと本人の報告を基礎に行うしかないと思われます。同時に、総労働時間の確認も怠らず、過重労働とならないよう管理する必要もあります。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
810-0041福岡市中央区大名2-10-3-シャンボール大名C1001
TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
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