【異常な解雇規制の非常識】
わが国の裁判は、解雇に関する訴訟について、会社側にとって非情、理不尽な判決となることが多いようです。事実、一般の人間の感覚として、解雇は当然と思えるような事案であっても、なかなか解雇が認められません。ここまで労働者に対して過保護にすることが、果たして国家全体の社会的利益につながっているかと考えると、断じて否定したいと考えるところです。
例えば、 貴社のケースのように、 他の 40 名近い労働者全員が嫌な思いをしていても、 1人の労働者保護のため、我慢を強いられるのです。法は、労働者保護という耳あたりの良い言葉をもって個人を保護するだけで、周囲の労働者や会社の迷惑に対しては知らんぷりなのです。
【今後の対応の選択肢】
詳細が分かりませんが、懲戒解雇できるような非違行為はないようです。解雇するとすれば、普通解雇になると思われます。普通解雇は、労働契約を継続しがたい事由があることが前提となります。貴社の場合、他の全従業員との信頼関係が修復しがたい程度に破壊されているようですので、解雇理由はあると考えられます。
労働法自体は解雇を禁止していませんが、訴訟では裁判所が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合」は、解雇を無効としてしまいます。
問題社員は、解雇されたら訴えると言っています。しかし、解雇しなければ、他の全従業員との今後の関係に支障をきたしそうです。問題社員を改心させるか、他の従業員を説得するかという問題なのでしょうが、もう一つ選択肢があります。それは、悩まず解雇してしまうことです。
【訴訟を恐れず、解雇しなければならないときがある】
解雇したら、敗訴リスクを負います。しかし、裁判上の和解が成立するケースも非常に多い現実があります。和解成立にはある程度の金銭支払いが伴いますが、敗訴するよりも低い額となるのが一般的です。仮に敗訴しても、それまでの期間は問題社員は出勤しませんし、その後職場復帰するとも限りません。費用はかかりますが、その費用を支払ってでも解雇したいと考えるのであれば、解雇の選択は現実味を帯びてきます。最悪職場復帰したとしても、他の従業員達は少なくとも会社が対応しないことに問題があるとは考えないでしょう。一方で、信頼関係破綻が労働契約継続困難として、解雇が認められる可能性もゼロではありません。
解雇の選択肢は、ある意味究極の選択です。しかし、現実社会には、裁判をおそれず解雇を決断しなければならないときもあると考えます。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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