【時給200円アップの意味】
時給 200 円アップを検討されているようですね。まずはこの「200 円」の意味を確認したいと思います。200 円というと少額にしか聞こえませんが、時給 200 円ですから、1 時間毎 200 円を意味します。1 カ月 100 時間労働なら月 2 万円、150 時間労働なら月 3 万円ということです。結構な額です。
気になるのが、既存のパート社員の時給です。今までは 800 円で募集されていたわけですから、おそらく多くのパート社員が 800 円〜 900 円くらいの水準でないかと思われます。新規雇用で 1000 円とするのなら、既存のパート社員も 1000 円以上としなければ間違いなくモラル低下につながります。
仮に既存パート社員一人平均の所定労働時間が 100 時間、一律時給 200 円アップで対応すれば、一人平均月額 1 万円の昇給です。40 人在籍していますから、月 80 万円の給与負担増となってしまいます。
【パート特有の問題】
既存パート社員の中には、 「夫の扶養の範囲内で働きたい」という方も珍しくありません。このようなタイプの方は、一般に年間給与 103 万円以下を希望します。仮に時給 800 円なら毎月平均約 107 時間労働が可能ですが、時給 1000 円の場合は一気に毎月平均約 85 時間以下としなければ年 103 万円を超えてしまいます。
「扶養」を希望する新規パート社員は、同じ賃金負担で最初から月 22 時間くらい少なくしか働けないことになります。 既存社員で 200 円昇給した場合も同様です。 即ち、人数を多く採用しなければならないことにつながる可能性が考えられます。
【給与が下げられない問題】
ご承知のとおり、昇給はいつでも自由に一方的に行い得ますが、降給は簡単にはできません。万一業績が悪化したとしても、原則として時給は下げられないのです。この観点から、仮に時給 1000 円とするとしても、例えば本給 800 円、業績・能力給 200円等と区分することも検討すべきといえるでしょう。
実は最も大きな問題は、この問題かもしれません。かつてバブル期においては大企業を中心に大量採用を繰り返したことが、バブル崩壊後の大量リストラに直結しました。それでも約 20 年前の話なので、当時は現在と比較するとリストラされる側が労働紛争を引き起こす確率は極めて少なかったのです。今後同じようなことが生じれば、最悪のケースでは事業存続が困難となりかねないくらいの打撃を受けることも考えられます。
【経営判断】
給与を引き上げれば採用はしやすくなりますが、様々なリスクが高まります。反対に、給与が低ければ採用はしにくいままですが、将来のリスクは低いといえます。即ち、リスクをとって採用するか、又はリスクを抑制して現状を耐えるか、場合によってはその中間をとるかという判断が必要となります。その判断は、まさに経営判断となります。 ある程度のリスクは事業につきものです。そのリスクを拡大させて何かを狙うのも経営判断ですし、 リスクをいかに抑制するかを優先することも経営判断です。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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