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福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《平成26年10月号》
パワハラの範囲と対応
  質 問

【質問者】
 卸売業(正社員 20 名、パート 5 名)

【質問内容】
 当社は、販売業を営む株式会社です。正社員は、主に小売店に対するルート営業と新規開拓営業を担当します。創業 10 年で、創業時から私が社長です。
 昨年、長年営業を経験してきた者を正社員として雇用しました。とても人当たりがよく、大いに期待しました。しかし、人当たりが良いのは最初だけで、顧客からのクレームも増え、担当者を変えて欲しいという話しも頻発するようになりました。
 担当上司が本人と面談したところ、本人はクレームを言ってくる顧客が悪いと言い出す始末です。 顧客との接し方や話し方等を指導しても、 自分のやり方に固執します。
 過去の経験だけを重んじて、当社の方針等を受け入れる姿勢が見受けられません。そのため、上司が、 「会社の方針に従えないのなら会社をやめたらどうだ。 」と言ったところ、 「パワハラですよ。労働局に相談します。 」と言って出ていってしまいました。
 この上司は、長年会社にとても貢献してきた者で、責任感も抜群だし他の部下からも本当に慕われています。上司は今回の件がパワハラ問題に発展するとは夢にも思っておらず、 ショックを受けて自ら会社に退職届を付した進退伺いを提出してきました。
 仮にパワハラだとしても、私は経営者として、この上司を守りたいのです。どうしたら良いでしょうか。

  回 答

 【法律上の定義】
 パワハラとは、 「パワーハラスメント」の略語です。しかし法律上の定義はありません。パワハラに当たるかどうかの判断の目安として、厚労省ワーキンググループにより 6 つの基準が示されています。最初に確認しておきます。

  @身体的な攻撃:身体への直接的な暴行、傷害など
  A精神的な攻撃:脅迫、侮辱、暴言など
  B人間関係からの切り離し:無視、隔離など
  C過大な要求:遂行不可能な業務の強制、仕事の妨害など
  D過小な要求:極めて程度が低い仕事の強制、仕事を与えないなど
  E個の侵害:私的なことに過度に立ち入ることなど

 【パワハラに当たるのか】
 「会社の方針に従えないのなら会社をやめたらどうだ。 」という発言が、パワハラに当たるかどうか考えてみます。6 つの類型のどれかに当たるでしょうか。仮にあたるとすれば、Aの「精神的な攻撃」ということになります。
 実際には、個別具体的な諸事情を総合勘案して判断するしかないのですが、私見はパワハラにあたらないと考えます。会社の方針に従えないのであれば、退職を勧めることは理不尽ではありませんし、殊更人格を攻撃するような内容の発言でもないと考えるからです。従って、上司の進退伺いを受理する必要もありません。

 【仮にパワハラだとして】
 仮にパワハラだとしても、上司の進退伺いを受理するわけにはいきませんね。少なくとも貴社の立場で、上司は特段誤った指導をしたわけでもありません。ただ、客観的に精神的な攻撃に該当する可能性を指摘されたに過ぎません。今後の言動に注意するよう指導いただければ十分でしょう。逆に、パワハラを指摘されることを恐れて、注意指導等を控えないように指導することが重要です。

 【本人に対して】
 私見は、貴社上司ご発言は適正だと考えておりますが、少し視点を変えてみます。
 会社には、労働者に対する指示命令権が認められています。即ち、会社の方針に従わないときは、従うよう命じることが重要です。それでも従わなければ、業務命令違反なので、就業規則を根拠に懲戒処分を検討すべきところなのです。そして、それでも繰り返されるのであれば、最終的には解雇も視野に入る可能性も考えられるのです。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
810-0041福岡市中央区大名2-10-3-シャンボール大名C1001
TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
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