【懲戒処分の前提】
懲戒処分するためには、その前提として、懲戒事由及び懲戒の内容を就業規則に定めておくことが必要です。 今回の懲戒解雇処分について、 貴医院は問題ないようです。
一般的な話しですが、就業規則で懲戒解雇と定めている懲戒事由に該当することをもって、必ず懲戒解雇が認められるわけではありません。客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、解雇はその権利を濫用したものとして、無効とされます。今回の懲戒事由は、飲酒運転です。飲酒運転については、先の海の中道飲酒運転事件後に刑法が厳罰改定されるなど社会問題になりました。一般的な感覚として、飲酒運転した者が懲戒解雇されることには、特に違和感もないと思われます。
【理解し難い裁判所の判断】
飲酒運転を理由とする懲戒解雇は、 裁判においても認められる例が多く存在します。しかし、認められなかった例も多く存在するのです。最近の例を紹介します。飲酒運転撲滅キャンペーンや禁酒令を出したことで知られる福岡市の職員が酒気帯び運転を理由に懲戒免職されましたが、その取り消しを求めた裁判で、なんと福岡地裁は懲戒免職は裁量権を逸脱しており違法とする判決を下したのです。平成 26 年 11 月 12 日判決です。その理由として、@事故を起こしていない、A過去に懲戒処分歴もない、B公務員の地位を奪うことは苛酷、等と示されています。
以上の通り、貴医院の看護師さんも、過去に懲戒歴はなさそうですし、事故も被害者ですし、裁判所が懲戒解雇を 100%認めるとは言えないと思われます。
【裁判所の誤り】
労働法は、一方的に労働者を保護する法律で、事業所にはあまりにも苛酷な義務を課しているといえます。もともと労働契約は民事契約です。そして、労働者が飲酒運転したときは、 この民事契約を解除することを大人があらかじめ契約しているのです。例えば、遅刻を 1 回したら解除だと契約していれば、社会通念上相当とはいえないかもしれません。しかし、飲酒運転は自動車を凶器に変える危険な行為であることは周知の事実です。懲戒解雇が認められない理由を理解できません。
民事契約で合意した契約解除事由について、よほどの理由がないにもかかわらず裁判所が労働者保護のためだけに修正すべきでありません。契約自由の原則が修正されるのは、公序良俗に反するとき等最小限でなければならないのです。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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