【社会保険加入義務】
すべての法人事業所は、社会保険に加入する義務があります。そして、個々の従業員について、入社日から加入する義務があります。正社員、契約社員等の制度を設けることは、各事業所の自由ですが、社会保険に加入させるかどうかは各事業所に決定権はありません。法律で決まっている事項です。従って、たとえ本人と合意があったとしても、違法行為となります。
ただ、例外もあります。所定労働日数又は所定労働時間数が一定以上少ない従業員については、適用除外とされています。具体的には、原則として、@ 1 カ月の所定労働日数が正社員等と比較して概ね 3/4 未満である従業員、A 1 日の所定労働時間数が正社員等と比較して概ね 3/4 未満である従業員、です。 「概ね」ということで、完全に明確な基準とは言い難いのですが、ざっくり考えると、@ 1 カ月に 15 日以下しか勤務しない従業員、A 1 日 5 時間以下しか勤務しない従業員、を目安にしてもらえばよろしいかと思います。この他に、 「2 カ月以下の期間を定めて雇用される臨時従業員」も適用除外です。これは、2 カ月以下の極めて短期間だけ雇用する臨時従業員であって、単に 2 カ月契約で更新予定があるケースは該当しません。
【未加入期間】
貴社の場合、契約社員のまま退職した場合は全く社会保険未加入です。正社員になった人であっても、その前の契約社員の期間については未加入です。今まで問題にならなかったかもしれませんが、永久に問題にならない保障はありません。
まず、社会保険料納付期間の時効は、2 年間です。仮に退職した方が、行政期間等に訴えれば、貴社は調査を受け、時効消滅前の未加入期間の保険料について遡って支払わされることになると思われます。過去の全ての契約社員数がわかりませんが、2年以内でも相当人数分ありそうです。しかも、本来は本人が負担すべき保険料部分についても、 控除して納付する義務を怠った事業所に対して全額請求となります。 月給 20万円程度でも、本人負担と事業所負担の合計額は月額 5 万円以上になります。3 カ月分で 15 万円以上、10 人分で 150 万円以上となります。本人負担分を肩代わりしても、回収は事実上困難です。さらに、延滞保険料が加算されます。年率 14.6 %と無視できない額です。
【その他のリスク】
この他に、将来のリスクもあります。本人等が将来年金を受給する期間等になったとき、 「会社が違法に社会保険加入しなかったため本来受給できる年金額より低い年金額となった」として、損害賠償請求を受ける例があります。もちろん、加入しない行為は違法ですから、事業所は損害賠償する義務を負います。
また、社会保険加入しないことについて、慰藉料請求を受ける例もあります。ブロッズ事件(東京地裁平成 26.12.24)において、 「使用者が…社会保険の加入手続きをしなかったときは、違法に労働者の有する上記法律上保護される利益ないし期待権を侵害したことになる」として、慰藉料と弁護士費用の支払いを命じています。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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