【労働契約】
従業員を雇用することは、 「労働契約を締結する」ということです。契約ですから、契約条件を定めます。その条件がどうなっているかによって、回答が変わります。契約条件として 「担当職種はドライバー業務に限る」 かどうかという点が鍵になります。
募集時に、ドライバーを募集し、応募した者をドライバーとして雇用すれば、通常はドライバー業務に限定して雇用したものと思われます。しかし、就業規則に「従業員を他の職務に異動させることがある」等の規定があれば、ドライバー業務に限定されているとはいえないことになります。就業規則は、労働契約においてまさしく「分厚い契約書」なのです。まずは、採用の経緯と、就業規則の規定をご確認下さい。
【職種限定特約】
仮にドライバー業務に限定して雇用されているとすれば、労働契約としてドライバー業務として就労不能である以上、労働契約を履行できない状態にあることを意味します。言い替えると、今回の本人の申出は、労働契約の変更を申し出ているようなものですから、これに応じる義務はありません。
逆に、ドライバー業務に限定して雇用されていないのであれば、原則として現実に担当可能な他の職務が存在することを前提として、その他の職務を担当させることにより復帰を認める必要があると考えられます。但し、私傷病で一定期間欠勤した場合等において、就業規則等で職場復帰する際のルール等が定められている場合は、その定めの内容も考慮する必要があります。例えば、 「担当する職務を十分に遂行できること」が条件となっているのであれば、短時間勤務での復帰を認める必要はないと考えられます。
以上の通り、ご質問の回答は、貴社の採用の経緯と就業規則によって大きく変わってくるのです。しかし、中小の運送業等において、就業規則で従業員の異動があり得る規定があるケースが意外にも少なくありません。貴社の場合、従業員は実質的に職種限定で雇用されていますので、もしこのような規定があれば、この機会に変更された方が良さそうです。
【傷病手当金】
本人にとって、仕事も復帰できず、傷病手当金も受給できないとなれば、生活に支障をきたすおそれがあることはごもっともです。
健康保険の傷病手当金制度は、民間保険の「入院 1 日○○円」等と異なり、入院していることを支給条件としておりません。主たる支給条件は、原則として、@就労不能であること、A休業していること、B休業期間中の賃金を受けられないこと、の 3つです。本人は、既に退院されているようですが、実質的にドライバー業務として就労不能のようです。主治医に再度事情を説明することで、おそらく就労不能と診断されるのではないでしょうか。そうであれば、休業し、その期間中の賃金が受けられないことで、傷病手当金の支給対象となると思われます。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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