【正社員】
正社員という用語は、社会で普通に使われていますが、法律用語ではありません。
正社員と聞いて、人それぞれ正社員像があると思いますが、あくまでも個人的な認識です。例えば、 「1 日 6 時間勤務、時間給制、賞与・退職金なし、残業なし」と聞いたら、どのような労働者像が浮かぶでしょうか。おそらく、パートタイマーが浮かぶのではないでしょうか。私もそう思います。しかし、法律上の根拠がないのです。ある事業所の従業員の全員が 1 日 6 時間勤務で時間給制だとして、その事業所がこの従業員達のことを「正社員」と呼称しているとしても、法律上何ら問題はないのです。
以上から、まず最初に「正社員だから転勤命令に従う義務がある」というお考えには、法的な根拠がないことを確認しておきます。
【労働契約】
では、転勤を命じて良いかどうかは、どうやって決まるのでしょうか。そのヒントは、会社と従業員との関係が、 「労働契約」という契約関係であることにあります。
正社員 2 名を雇用する際、どのような契約をされたでしょうか。担当業務の内容、
労働時間は何時から何時まで、休みはいつ、給与はいくら、だけではありません。労働基準法などが適用される関係から、何も決めてなくても、残業時間に対する割増賃金、年次有給休暇、定期健診、育児休業等は法定通り適用されます。しかし、法律がない分野については、原則として採用時の契約内容で決まるのです。
【契約内容】
採用時の契約内容は、実に多岐にわたります。そして、会社側が決めておきたい事項も盛りだくさんです。社員として望まれる姿、就業中にしてはいけないこと、定年年齢、解雇事由等挙げたらキリがありません。そして、これらに加えて、人事異動の有無等についても労働契約として決めておく必要があるわけです。
正社員を雇用した 10 年前は、東京店の出店計画もなく、転居を伴う転勤は想定外だったかもしれません。 それでも、 当時から将来多店舗展開を目指していたのであれば、新規出店に伴う異動の可能性があると契約することも可能だったかもしれません。
【契約実務】
既述の通り、契約すべき事項は多岐にわたりますが、一人一人分厚い契約書を作成するわけにもいきません。ここで登場するのが、就業規則です。確かに 10 人未満の事業所は就業規則作成届出義務はありませんが、作成を禁じられているわけではありません。就業規則の効力発生要件は、労働基準監督署への届出ではなく、従業員への周知です。今からでも、就業規則を作成することをお勧めしたいと思います。
ちなみに今回は、残念ながら転勤命令は難しそうですね。何とか頼み込み、ダメなら隔週交代の出張は可能か等協議する必要がありますね。労働契約で決まっていなくても、また、決めたことに反する内容であっても、会社と本人が合意すれば、労働契約の内容を変更することができるのです。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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