【休職制度と背景】
「休職」という言葉はよく使われますが、法律で義務づけられた制度ではありません。休職制度を設けるかどうか、また、設ける場合はどのような制度にするのか等は、原則として事業所の裁量で決まります。しかし、いったん休職制度を定めてしまえば、その制度が労働契約の一部になってしまい、その後自由に変更できるわけではありません。貴社は、残念ながら 20 年前に安易に他社の就業規則を転用した為に、無意識に休職制度まで設けられたことになります。しかも、その後 20 年間、一度も見直さずに今日に至ってしまっていることになります。
もともと労働契約は、労働者が労務を提供し、事業所がこれに賃金を支払うことを前提とする契約です。従って、労働者が、うつ病その他私傷病等によって労務提供ができなくなれば、労働契約の履行ができなくなってしまいます。即ち、労働契約の解除(=解雇)理由となるわけです。
しかし、人間ですから、少し病気するくらいのことは想定内です。では、どのくらいの期間なら、病気欠勤しても労働契約の継続が認められるのかという問題になります。これが、各事業所が任意に定める休職制度となります。このような背景から、解雇猶予制度ともいわれます。
【制度の変更】
現在検討されている改定案は、休職期間について「2 年⇒ 3 カ月〜 6 カ月」という大幅な短縮、休職期間中の給与について「6 割保障⇒無給」というものです。一般にいう、 「不利益変更」に当たるといえます。不利益変更とは、主語は労働者で、 「労働者にとって従来よりも不利益となる変更」のことをいいます。
労働側の専門家等の中には、 「不利益変更は認めなられない」と堂々と言う者もいるようですが、これは大嘘です。労働契約法第 9 条は、労使合意がある場合は認められるとしていますし、労働契約法第 10 条は、労働者が合意しない場合にも認められるけーすについて規定しています。
【労働契約法10条】
労働者が合意しない不利益変更であっても、@不利益の程度、A変更の必要性、B変更後の内容の相当性、C労働者との交渉の状況、Dその他、を総合勘案して合理的な者である場合は、変更が認められます。
@賃金や労働時間の不利益変更は不利益の程度が大きいとされますが、休職制度の場合は、休職事由がある者に限られることなどから、さほど不利益の程度が大きいとはいえません。A休職期間 2 年は大企業等体力のある企業が採用する期間であり、小規模企業にとっては現実的でなく、ある程度の変更の必要性も認められるでしょう。6割保障を無給にしても、実際には健康保険制度の傷病手当金が受給できるため、労働者に不利益はありません。B変更後の内容は、一般的な中小企業の内容といえます。C変更にあたり、労働者への説明を果たし、できるだけ合意を得るべきです。D今回うつ病休職を予定してる人について、変更後の規定を適用すると、問題になりかねません。貴社の希望に相違するかもしれませんが、今回の求職者については変更前の制度を適用することで、今後の変更を有効とする方向で検討するのが無難です。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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