【「50人」の壁】
50 人以上の事業所は、年一回ストレスチェックを実施することが義務づけられることになりました。労働法関係においては、 「50 人」というのは大きな壁があります。
産業医や衛生管理者の選任が義務づけられるのも、衛生委員会の設置が義務づけられるのも、すべて「50 人」が基準です。今回のストレスチェック制度も、50 人以上の事業所について義務化され、50 人未満の事業所は努力義務(事実上「実施義務無し」 )となっています。
【健康診断との相違点】
労働者を一人でも雇用すれば、年一回の法定健康診断を実施することが義務づけられます。50 人以上の事業所にとっては、これにストレスチェックが加わることになります。いずれも年一回ですから、第 1 回目のストレスチェックは、平成 27 年 12 月 1日から平成 28 年 11 月末までの 1 年の間に実施する必要があります。この 1 年間には、必ず健康診断を実施するわけですから、ストレスチェックも健康診断と同時期に実施することを検討している事業所が多いようです。同時期に実施すること自体は全く問題ないのですが、健康診断とは異なる取扱いが多々あるため、注意を要します。
@実施事務従事者を除き、次の事務等を行ってはならない(人事権限のある管理監督者は実施事務従事者に選任できない)
・労働者が記入した調査票の回収
・ストレスチェック結果の封入その他労働者への通知までの事務
・実施者が要面接指導と認めた者への面接指導申出勧奨
A労働者にストレスチェックを受ける義務はない
B高ストレスと診断された者は、医師による面接指導を申し出ることができる
以上の通り、健康診断とは全く異なります。健康診断の受診は労働者の義務で、事業所は健診結果を確認の上有所見者にはその結果に応じた対応をもとめられます。これに対し、ストレスチェックは、労働者に受診義務が無く、診断結果は事業所には通知されず、個々の労働者の合意なく内容を確認することもできないのです。
【実施方針等の決定】
まずは衛生委員会において、いろいろと決める必要があります。実施方針の確認、実施者(医師、保健師、看護師、精神保健福祉士のいずれか)の選任、実施事務従事者の選任等です。就業規則変更も検討を要します。
実施後は、実施事務担当者は個々の労働者の結果を漏洩しないよう配慮しつつ個々の労働者に通知します。実施者が高ストレスと判断した者は、面接指導の申し出ができます。事業所は、面接指導の結果から、必要な措置をとることになります。
【ストレスチェック制度への疑問】
ストレスチェック制度は、労働者に対して性善説を前提としなければ成立しない制度です。国が推奨する 57 項目の質問票が公開されていますが、回答はすべて個々の労働者の主観によるもので、しかも意識的に結果を操作させることも可能な内容です。
反対に、事業所にはストレスチェックの実施を義務づけておきながら、その結果については知らせないことを原則とするなど、労働法が「事業所は悪」と決めつけているような制度です。労働者にとって本当に必要な制度なら、労働者自らの負担で実施させるべきですし、事業所に義務づけるのであれば、健康診断と同様に結果についても事業所に知らせてその後の健康管理に役立たせるべきだと思います。
ある程度は、ストレスチェックを悪用する労働者が出てくることは覚悟しておかざるを得ないと思われます。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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