【労働者とは】
神職や巫女が「労働者」かと考えるとき、まず多くの日本人のイメージとして、強い違和感を覚えるのではないかと思います。そもそも、多くの民間企業でも、自社の従業員のことを「うちの労働者が」というような表現することは少数でしょう。一般的には、従業員、社員、スタッフ等でしょうか。
労働基準法は、 「労働者」という語の定義を定めています。
■労働基準法第 9 条
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。 )に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
【第9条のポイント】
労働基準法は昭和 22 年に施行されましたが、戦前の「工場法」が基礎となっています。即ち、工場で働く工員を念頭において作られた法律です。工場の工員ですから、「労働者」という語でも違和感がありませんね。しかし、建設現場作業員その他違和感がない職種も多々ありますが、違和感がある職種も含めて「労働者」とされてしまっています。
労働者の定義を定める労働基準法を確認します。ポイントは、 「職業の種類を問わない」 「使用される者」 「賃金を支払われる者」の 3 つです。職業の種類を問わないわけですから、神社の神職や巫女であっても対象外とはなりませんね。
「使用される者」がちょっと難しい表現ですが、 「雇用主の指示に従って労務を提供する者」というような感じです。貴神社の神職や巫女が、貴神社の指示に従って奉職されているのであれば、該当することになります。逆に、指示に従わずに勝手なことをすることが許されるとは考えにくいですね。
最後に、賃金ですが、これも工場法の名残です。民間企業でも給与、給料等の表現の方が一般的です。神社の場合は俸給と表現することが多いでしょうね。
以上の通り、どうも労働法上の労働者に該当しそうです。
【通達】
宗教関係者の労働者性について、昭和 27 年の古い行政解釈(通達)がありますので、紹介します(昭和 27 年 2 月 5 日基発 49 号) 。
(イ) 宗教上の儀式、布教等に従事する者、教師、僧職者等で修行中の者、信者であって何等の給与を受けず奉仕する者等は労働基準法上の労働者でないこと。
(ロ) 一般の企業の労働者と同様に、労働契約に基づき、労務を提供し、賃金を受ける者は、労働基準法上の労働者であること。
(ハ) 宗教上の奉仕あるいは修行であるという信念に基づいて一般の労働者と同様の勤務に服し報酬を受けている者については、具体的な勤務条件、特に、報酬の額、支給方法等を一般企業のそれと比較し、個々の事例について実情に即して判断すること。
通達(ロ)及び(ハ)により、生活のための俸給を支払っている以上は、労働法上の労働者に該当すると考えざるを得ないでしょう。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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