【恋愛の自由】
法律に「恋愛の自由」が明確に定められているわけではありません。しかし、憲法第 13 条が個人の自由と幸福追求権を保障し、同第 24 条が婚姻について両性の合意のみに基づくと規定するなど、恋愛が自由であることは大原則といえるでしょう。
ここで問題となるのが、不倫まで自由であるかという点です。一夫一婦制の原則の下、不倫は不法行為にあたります。当事者同士にとっては自由かもしれませんが、不倫行為によって夫婦の一方は権利の侵害を受けるわけですから、自由が保障されることにはなりません。
【就業規則】
貴社就業規則は、 「社内恋愛禁止」を明示しているとのことです。 「不倫禁止」ではなく、広く「社内恋愛禁止」という内容であれば、結論を先にいうと無効な規定となります。労働基準監督署に受理された就業規則であるとしても、労働基準監督署による受理は就業規則の内容にお墨付きを与えたという意味ではなく、届出義務を履行したかどうか確認したという意味程度のものでしかありません。即ち、貴社が最近採用された社員の申出は、法律上は合理性があるということになります。
ところで、広く社内恋愛を禁止するものではなく、不倫についてのみ禁止する規定だったらどうでしょうか。既述の通り不倫は不法行為ですから、不法行為を禁止する規定が無効にはなりません。
【懲戒】
では、不倫をした社員に対し、懲戒処分が可能かという問題があります。裁判所の考え方は、基本的に個人の私生活上の非行に対する懲戒処分については、事業所に対して厳しい姿勢です。要は、私生活上の非行の結果として、事業所にどれだけの被害等があったのかという視点から検討されます。少し古い裁判例ですが、不倫を理由に解雇した事案で、 「地位、職務内容、交際の態様、会社の規模、業態等に照らしても、債権者(不倫した社員)と乙との交際が債務者(会社)の職場の風紀・秩序を乱し、その企業運営に具体的な影響を与えたと一応認めるに足りる疎明はない」として、解雇を無効と判断しています(繁機工設備事件、旭川地裁平成元年 12 月 27 日判決) 。
懲戒処分とするとしても重い処分は認められにくく、さらに軽い処分でも当事者の不倫関係が継続すれば実効性がありません。非常に難しい対応となりそうです。
【特殊な業種】
女性アイドルが所属事務所から「恋愛禁止」等の誓約書を求められるケースはよく聞く話です。最近も、男性ファンとラブホテルに入る等した女性アイドルに対し、芸能事務所等に損害賠償を命ずる判決が出ています(S 社他事件、東京地裁平成 27 年 9月 18 日判決) 。
女性アイドルの場合、イメージが重要ですから、恋愛禁止の取り決めに合理性が認められる可能性があるわけです。このような特殊事情がない限り、通常の社内恋愛禁止規定が認められるケースはほとんどないと考えられます。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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