【退職金規程】
労働法は、退職金支払い義務を定めていませんから、法律上は退職金を支払う義務はありません。しかし、労働契約の内容の一つとして、退職金規程を定めれば、その退職金規程の定めに従って支払う義務が生じます。
貴社のように、退職金規程で懲戒解雇された者には退職金は支払わないと定めることは、極めて一般的です。今回の貴社のケースのように、場合によっては「泥棒に追銭」になりかねないので、当然のことと言えるでしょう。
【「懲戒解雇」に限定】
貴社の退職金規程の詳細がわかりませんが、退職金不支給となるのは「懲戒解雇されたとき」と定められているようです。 「悪いことをして辞める者には退職金は支払わない」というのが規定の背景にあると思われます。今回の経理社員は、自ら横領したことを認めないものの、経理社員として使途不明金を生じさせ、しかも「わからない」等の無責任発言を繰り返すのですから、貴社の気持ちが懲戒解雇であることは理解できます。
しかし、結論を言うと、退職金を支払わざるを得ないのです。その理由は、 「懲戒解雇されたとき」に該当しないからです。
【規程の詳細確認】
結論として退職金を支払わざるを得ないと言いましたが、念のため退職金規程をよくご確認下さい。もしかしたら、不支給事由として「懲戒解雇に準ずる事由があるとき」「退職後に懲戒解雇に相当する事由が判明したとき」等の規定があるかもしれません。
もしこのような規定があれば、退職金不支給が認められる可能性があります。ただ、不支給とするためには、経理社員が着服又は横領したことを認めるか、又は経理業務に関して重大な非違行為があった結果として使途不明金が生じたことについて貴社が証明する必要があります。要は、懲戒解雇相当であることが客観的に認められる必要があるのです。既に本人とは連絡も取りにくい中、かなり困難かもしれません。
【今後のため】
今回の経理社員は、二週間前に予告して業務引継すら全くせずに退職してしまった極悪人と言えます。横領の疑いが極めて濃厚ですが、残念ながら本人が認めませんし、確たる証拠がありません。本人と話しをする前に、認めなかったときの対応を視野に入れておくべきだったかもしれません。事前に証拠を固める際に、その証拠だけで客観的にも経理社員の犯行とほぼ断定できる水準を意識しておく必要があります。
本人と話しをしても認めない場合、使途不明金があることは間違いないわけですから、できればその場で使途不明金を生じさせた原因や責任等について書面に書かせておく必要があります。最悪の場合は、これが解雇理由になります。
一方、退職金規程も見直したいですね。単に懲戒解雇に限らず、引継ぎをきちんとしなかった場合も不支給事由として良いかもしません。ただ、裁判例では、事案にもよりますが、退職金不支給に対して一定割合の支払いを命ずるケースが多いです・・・
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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