【厚生労働省による指導】
厚生労働省は、 「公正な採用選考の基本」として、採用選考に当たっては「応募者の基本的人権を尊重すること」 、 「応募者の適性・能力のみを基準として行うこと」の 2点を基本的な考え方として挙げています。
職業安定法第 5 条の 4 等を根拠とする平成 11 年 11 月 17 日労働省告示第 141 号は、「職業紹介事業者等」は、 「職業紹介事業者等」の「等」に「労働者の募集を行う者」が含まれると明示して次の個人情報を収集してはならないと示しています。
イ 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
ロ 思想及び信条
ハ 労働組合への加入状況
さらに、厚生労働省ホームページに「採用選考時に配慮すべき事項」とし主に次の事項を挙げ、これらの確認等が就職差別につながるおそれがあると指摘しています。
・本籍、出生地
・家族に関すること(職業、続柄、健康、地位、学歴、収入、資産、構成など)
・宗教、支持政党、人生観、生活信条、尊敬する人物又は思想に関すること
・労働組合加入状況や活動歴、学生運動など社会運動に関すること
・購読新聞、雑誌、愛読書などに関すること
・身元調査などの実施( 「現住所の略図」も身元調査につながる可能性がある)
・合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施
【職業安定法】
厚生労働省の考え方をどう感じましたか。何も聞けませんね。実際に、公共職業安定所等において、既述の内容を明示して採用面接時に確認しないよう求めたりしています。しかし、ちょっと冷静に考えてみたいと思います。
職業安定法第 1 条は、公共職業安定所等の機関が適正な運営等によって職業安定を図ること等を目的としていることが明示されています。そしてこの職業安定法を根拠として、平成 11 年 11 月 17 日通達があるわけです。 「労働者の募集を行う者」とありますが、 「労働者を採用しようとする者」とは書かれていません。即ち、公共職業安定所や職業紹介事業者を対象とするものであり、直接雇用する民間事業所にそのまま適用されるものではないと解されるのです。
【採用の自由】
採用については、有名な最高裁判例があります。三菱樹脂事件(最高裁昭和 48 年 12月 12 日判決)です。詳細を紹介できませんが、 「企業者が雇傭の自由を有し、思想、信条を理由として雇入れを拒んでも」違法ではなく、 「労働者の採否決定にあたり、労働者の思想、信条…に関連する事項についての申告を求めることも、これを法律上禁止された違法行為とすべき理由はない」としています。
公共職業安定所は、自らを規制する法律に則って指導しているわけですが、これに従う義務まではないということになります。ただ、応募者は様々な人がいるわけで、事業所として争い事はない方が良いに決まっています。厚生労働省が示す事項については配慮しつつ、例えば質問事項は書面で任意回答とする等、工夫が必要でしょう。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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