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福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《平成29年5月号》
1カ月単位変形労働時間制の不適切運用
  質 問

【質問者】
 小売業(正社員 20 名、契約社員 20 名、パート多数)

【質問内容】
 当社は、小売業を営む株式会社です。小売店舗を 3 店舗運営しています。各店舗毎に正社員と契約社員で 10 名程度、別途パートが多数在籍しています。正社員と契約社員の所定労働時間は、1 カ月単位の変形労働時間制としています。労働者の所定休日はシフトによる交代制で、原則週休 2 日としています。所定労働時間数の基本は、土曜、日曜は所定 10 時間、平日は 6 時間程度を原則としています。
 勤務シフトは、各店長が毎月月末までに翌月分を作成して周知させています。営業時間がベースにありますが、特に正社員は閉店後の業務も多く、それなりに時間外労働が生じています。1 カ月変形制なので、1 カ月の総所定労働時間数を超過した時間に対して時間外手当を支給しています。従って、毎月下旬になると、既に当月の累積時間数が多い労働者に対しては、当日の所定労働時間数よりも短い時間で切り上げるよう指示するなどして、できるだけ時間外手当の支払が多くならないよう努めています。
 ところが、最近、ヤマト運輸が 1 カ月変形労働時間制で、当社と同じように 1 カ月の総所定労働時間数を越えた時間に対して時間外手当を支払っていたことを知りました。しかも、これが「不適切」として、不払い時間外手当を支払うことになったと。このままでは当社も同じように未払い残業代を請求されかねないため、できれば早く適正化したいと考えています。1 カ月単位の変形労働時間制の適切な運用について、教えてください。

  回 答

 【1カ月単位の変形労働時間制とは】
 労働時間の原則は、1 週間あたり 40 時間以下、かつ 1 日 8 時間以下です。しかし、事業の効率や特殊性等を考慮し、一定期間を平均した結果として週 40 時間以下とすることが認められる制度を、変形労働時間制といいます。そして、その期間を 1 カ月以下の単位とする変形制が、1 カ月単位の変形労働時間制(以下「1 カ月変形制」 )です。
 1 カ月変形制の特徴は、ある日・ある週の所定労働時間を 8 時間超・40 時間超としても、他の日・他の週の所定労働時間を 8 時間未満・40 時間未満とすることで 1 カ月間を平均して週 40 時間以下とすることにより、ある日・ある週の所定労働時間が 8 時間・40 時間を越えていても法定時間内とみなされることです。

 【1カ月変形制の運用】
 1 カ月変形制は、@対象労働者の範囲、A対象期間と起算日、B所定労働日・各所定労働日毎の所定労働時間、等を就業規則等で定めることで実施可能です。実際の運用では、Bについてはその都度定めることが多いようです。この場合、たとえば前月末までに、当月分の勤務シフト表を作成することになります。対象期間を 1 カ月とする場合、1 カ月間の総所定労働時間数の上限は【31 日の月・約 177 時間、30 日の月・約 171 時間】となります。1 カ月変形制の注意点は、あらかじめ定めた勤務シフトこそが所定労働時間となることです。言い替えると、各労働日ごとに所定労働時間数が異なるとしても、その時間を越えた時点で時間外労働となることです。

 【1カ月変形制と時間外手当】
 貴社の場合、平日の勤務シフトは原則 6 時間です。この日に 8 時間労働であれば 2時間の時間外となります。他の平日に 6 時間のところ 4 時間に短縮したとしても,平日の 2 時間の時間外は消えません。
 1 カ月変形制の場合、まず「勤務シフトの時間を越えた時間は、すべて時間外労働」というのが原則となります。さらに、時間外労働のうち、次のいずれか一つに該当すれば、2 割 5 分増以上の割増賃金支払いが必要となります。

 @【1 日】8 時間を超えた時間(所定が 8 時間超の日はその所定時間数を超えた時間)
 A【1 週】40 時間を越えた時間(所定が 40 時間超の週はその所定時間数を超えた時間)
 B【1 カ月】1 カ月総時間数(177 時間、171 時間等)を超えた時間

 貴社の場合、上記Bのみで運用されている点が不適切な運用となります。平日 6 時間の日に 8 時間労働させれば 2 時間が時間外となります。上記@にはあたりませんが、少なくとも時間外として割増無の時間外手当は必要です。別途AかBに当たるなら、割増も必要となります。また、他の平日に 6 時間のところ 4 時間で帰せば、2 時間分については事業所都合による休業に当たるため、休業手当を支払わなければばなりません。せっかく時間管理していますが、法律上は無駄な対応となってしまっています。  今後は、シフトを定めた後は、シフトを尊重した運用をしていただければと思います。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
810-0041福岡市中央区大名2-10-3-シャンボール大名C1001
TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
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