【求人条件と労働条件(質問@A)】
求人条件は、あくまでも求人募集としての条件です。従って、応募してきた者について、絶対にその求人条件で雇用しなければならないという法律はありません。従って、採用面接等の際に、「求人条件は○○であるが、△△という条件でよければ雇用する」等、明確に労働条件を提示して本人の合意を得れば、@求人条件より低い給与で雇用したり、A正職員募集に応募してきた者を契約職員として雇用したとしても、直ちに違法とはされません。
しかしながら、本人にとっては良い話しではありませんので、慎重な対応が必要となります。貴法人が意識しておくべき事項として、2 点挙げておきます。
最初に、低い条件等を提示したこと自体を、本人がハローワークや求人媒体等に相談する可能性があることが挙げられます。場合によっては悪影響が考えられます。さらに、SNS 等に掲載されることも考えられます。
次に、後日ひっくり返される可能性があることが挙げられます。本人が「自由意思」で低い条件等に合意したと認められる合理的理由が客観的に存在しないときは、求人条件が労働条件となるとする裁判例があります(デイサービス A 社事件、京都地裁平成 29 年 3 月 30 日判決)。
以上から、求人条件より低い条件での雇用には、リスクがあるといえます。見た目の問題もあって難しいかもしれませんが、最低条件から最高条件の幅を明示したり、無期雇用と有期雇用の 2 つの求人を掲載した方が無難だと考えられます。
【労働条件の明示(質問B)】
労働基準法第 15 条は、雇い入れ時に給与等の労働条件を書面明示することを義務づけています。従って、採用時に給与額が決まっていないと書面明示できないため、違法ということになります。
【労働条件の変更(質問CDE)】
ご質問のCDEは、いずれも採用後の労働条件の変更に関する事項です。結論としては、「本人の合意なく不利益変更はできない」となります。また「合意」という条件が出てきましたが、今回も「自由意思」が尊重されます。一般に、不利益変更に対して自由意思で喜んで合意する理由はありませんから、よほどの客観的理由がなければ難しいと考えておく必要があります。
質問Dの賞与については、一般に求人条件として固定額で記載しないと思われます。仮に採用時の労働条件において賞与額が確定していないのであれば、不支給としても直ちに違法とはならない可能性があります。但し、過去における他の職員への賞与支給状況等を照らして不合理である場合等、認められないケースもあります。採用時に、賞与不支給もあり得ることを明示しておくことが望ましいと考えられます。
お気づきのとおり、昇給等、採用時の労働条件より有利な変更については全く問題となることはありませんが、不利益変更については原則として問題となります。最初から降給の可能性があるときは、採用時に想定降給後の給与額で雇用して仕事状況が良ければ昇給とすれば問題ありません。採用後に正職員からパートに切り替える可能性があるときは、最初からパートで雇用して、後日正職員登用すれば問題ありません。ただ、これではなかなか採用できないのが近年の状況で、頭が痛いところです。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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