【労働契約と指揮命令権】
貴社の所定労働時間を、仮に始業時刻 9 時、終業時刻 18 時だとして検討します。この所定労働時間は、労働契約という「契約」によって定められたものです。従って、労働者が勝手に朝早く出勤して「始業」することは、厳密にいえば契約違反に当たることになります。しかし、実際に出勤して仕事しているのであれば、原則として会社の指揮命令下に入った状態と評価されます。ここで重要なのが、会社がこの状態に対し、どのような対応をとるかということになります。
仮に何も対応せず放置すれば、 「黙認」により労働時間であると評価される可能性が極めて高いといえます。指揮命令権が行使できるにもかかわらず、行使しなかったためです。逆に、早く出社してきても始業時刻まで始業しないよう再三注意指導を繰り返したのであれば、労働者の契約違反ということで、労働時間とは評価されない可能性が高くなるわけです。
終業時刻前に「ダラダラ談笑」している時間についても同様です。何も対応しなければ原則として労働時間となってしまいます。
【タイムカードのみの危険性】
お話しによりますと、タイムカードだけを導入されようとしているようです。実は、これは非常に危険だと言えます。タイムカードは、ご指摘の通り「出社時刻・退社時刻」が記録されますが、労働時間の算定に必要な「始業時刻・終業時刻」を示すものではないためです。
タイムカードしか記録がない場合、出社時刻から始業時刻までの間の残業代請求等を受けた場合、この時間帯に就業させない措置をとっていたことを会社が立証しなければならなくなります。できない場合、タイムカードの出社時刻から労働時間と認定されてしまう可能性が高いわけです。
一般に、労働時間の自己申告書を書かせるケースが多いです。貴社の場合もこのような対応をし、内容をよく確認して疑義があればその都度指導されるような対応をするべきだと考えます。
【30分切り捨て】
労働時間は、1 分単位とされています。結論として、30 分単位での切り捨ては認められません。かなり以前は多くの事業所が 30 分単位で切り捨てていましたが、これは誤解に基づくものです。日々の労働時間(1 分単位)を 1 カ月分集計し、その合計時間数について端数の 30 分以上を 1 時間に切り上げ、30 分未満を切り捨てる取扱いが認められています。あくまでも 1 カ月の合計時間数についてのみ認められているのであって、日々の時間数には適用できません。
終業時刻も本来は定時までが「契約」です。定時までに終業できないのであれば仕方ありませんが、この場合も「事前申請制」をとる事業所が増えています。事前申請も大別すると、@すべての残業を対象、A一定時間を越える残業を対象、の方法があります。こちらもあわせてご検討いただければと思います。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
|