【労働時間の定義】
労働時間とは、労働した時間だというのが一般常識ですし、日本語としてこの考え方で間違いありません。しかし、 「労働法上の労働時間」となると、一気に話が変わってきます。
例えば、電話番だけを担当する者を雇用し、9 時〜 17 時の時間帯ずっと電話機の近くから離れてはならないとします。電話応対中を除けば、好きな本を読んでいても、ゲーム等で遊んでいても自由だとします。そしてある日、1 日中 1 件も電話が鳴らなかったとします。この日は労働時間がゼロだから、給与もゼロでよいかというと、それは違うだろうと思いますよね。電話が鳴っても鳴らなくても、そこに居ることと、鳴ったら応対することが仕事です。即ち、そこに居る時間は、原則として労働時間だという考え方になるわけです。
【警備業の場合】
電話番については既述の通りですが、警備業の場合もほとんど同じような考え方となります。
まず休憩時間ですが、休んでいてよい時間で、実際に仕事をしていなければ休憩時間だというのが常識でしょう。さきほどの労働時間と同様に、日本語としてはこれで良いと思います。しかし、 「法律上の休憩時間」となりますと、考え方が変わってきます。結論として、 「完全に労働から解放された時間」とされています。完全に解放ということですから、外出して好きなことをしたり、家が近くなら帰宅して寝ていてもよいような時間なら休憩時間となります。しかし、現場に居る必要があり、何かあったときは対応しなければならないのであれば、完全に解放されたことにならないわけです。
次に仮眠時間ですが、仮眠してよい時間で、実際に寝ていれば、少なくとも労働時間とは言わないのが常識でしょう。しかし、これまた休憩時間の考え方と同様となります。労働時間の計算方法は、単純に【労働時間=拘束時間−休憩時間】と考えて差し支えありません。ということは、仮眠時間と呼ばれている時間が休憩時間にあたるかどうかという話しになるわけです。当たらないですよね…
大星ビル管理事件(最高裁平成 14 年 2 月 28 日判決)が有名ですが、仮眠時間等の不活動時間も労働時間に該当すると判示していました。最近は、地裁判決ですが、イオンディライトセキュリティ事件(千葉地裁平成 29 年 5 月 17 日判決)においても、同様の判断がなされています。
【本人への対応】
選択肢として、@無視する、A一切支払わない旨通知する、B一部支払う旨通知する、C支払い額について協議したい旨通知をする、D全額支払う旨通知する、等が考えられます。どれを選択するかは、経営者の判断となります。しかし、労働基準監督署に申告されたくなければ、@Aの選択はありませんね。Bも危ないと思われます。紛争にならないよう、慎重にご対応いただきたいと思います。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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