【当然の権利?】
法律上認められているというだけのことを強調して、「当然の権利」と表現する人が少なくありません。このような表現をする人は、何故か「当然の義務」とは言いません。権利と義務は、表裏一体の関係のはずです。まず最初に、この認識を強く持っていただきたいと思います。
【妊娠中の労働者の権利】
男女雇用機会均等法第9 条は、妊娠等を理由とする解雇その他の不利益取扱いを禁止しています。特に第4 項は、妊娠中及び産後1 年以内の女性労働者に対し、原則解雇禁止を規定しているほどです。また、第11 条の2 は、妊娠したことや出産したこと等に関する言動についても規制しています。いわゆるマタニティハラスメント(マタハラ)の禁止です。
また、体調が悪いと言っているのに、無視して働かせて何か起これば問題です。結局、本人が体調不良を訴えるなら休ませるしかなく、休業しないと言うならこれを無視して休業を命ずるわけにもいかないことになります。
【妊娠中の労働者の義務】
一方で、妊娠中であっても、労働者としての義務がなくなるわけではありません。出勤する以上は、原則として通常通り労働する義務があります。仮に妊娠中であるため、軽易な業務に転換させるとしても、その軽易な業務について誠実に労働する義務があるわけです。出勤してもきちんと働いていない点については、きちんと注意指導する必要があります。もし働けない等の理由を主張するようであれば、労働義務を果たせない状態であることを理由として、休業を命じることができる可能性が生じることになります。
また、労働者は、職場環境を悪化させないよう配慮する義務を負っています。本人は自分が原因で悪化しているとは気付いていないかもしれませんので、これもマタハラ等に注意しつつ適切な注意指導が必要です。本人は、妊娠中だから体調不良で休んだり、少しラクしたりすることは当然と考えている節がありますが、あくまでも義務を果たすこととのセットでの権利です。妊娠中で体調が悪いのに、出勤することを選択しているのは本人です。そして出勤する以上は、他の労働者との協業が必要となるわけです。その協業において、周囲の労働者には配慮してもらわなければならない立場であることを自覚し、周囲への感謝の気持ちを持っていただくよう、指導する必要があります。
人間は感情の動物です。妊娠中の労働者が周囲に感謝の気持ちを示すのであれば協力的な対応をしますが、そうでなければ不快に感じたりするわけです。このあたりをわかってもらえれば良いのですが、いろんな人がいるという現実もありますね…
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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