【問題の有無】
存在します。実はこれ、専門家泣かせの質問方法です。労働関係は、人と人との問題ですし、限られた情報だけでは判断できないことも多々あります。そもそも、労働関係においては「何ら問題ない」ということの方が少なく、どこまで回答すれば良いのか悩ませられるというのが本音です。従って、いただいたご質問について、@予告手当を支払わずに即時解雇して良いか、Aもし紛争になった場合において解雇は有効か無効か、の2 点に絞って回答したいと思います。
【即時解雇】
試用期間の長さは、事業所が自由に定められます。しかし、労働基準法が予告手当を支払わない即時解雇を認めているのは、わずか14 日間だけです。従いまして、労働基準法上、即時解雇自体は禁じられていませんが、試用期間中であっても既に14 日を越えている場合は30 日分以上の予告手当を支払う義務が生じます。
しかし、これでは「泥棒に追銭」となりかねないですね。そこで、労働者の責めに帰すべき事由があるときは、労働基準監督署長による解雇予告除外認定を受ければ、予告手当支払いなく即時解雇が認められることになっています。
ただ、この解雇予告除外認定申請がネックです。貴社の場合、本人が横領を認めていませんから、労働基準監督官による調査に対しても同様に認めないと予想されます。この場合、労働基準監督官が徹底的に捜査等をすることはなく、除外認定申請を「不認定」として終わってしまうのです。
結論として、即時解雇するなら予告手当支払が必要で、予告手当支払いを避けるなら30 日後以降の日付を指定して解雇するしかありません。
【
【解雇は有効か無効か】
解雇すること自体は構わないのですが、紛争になった場合にその解雇が有効か無効かを判断するのは、労働基準監督署ではなく裁判所となります。裁判所と言えば、根底に「疑わしきは罰せず」という考え方を持っています。残念ながら、限りなくクロだといえる場合でも、本人が横領したことを認めない限り、解雇は無効と判断される可能性が極めて高いといえるでしょう。
万一紛争になることを想定すると、安易に解雇できないということになります。
【どうしたらよいか】
それでも解雇するかどうかは、最終的には経営判断です。裁判でも負けても絶対に解雇すると考える経営者もいるでしょうし、負けるなら解雇しないと考える経営者もいるでしょう。また、解雇しない場合でも、あきらめて雇用を継続するのか、なんとか辞めてもらおうと対応するのか等、様々な選択肢があります。
現実的には、おそらく信頼関係も破綻しているでしょうし、このまま雇用が継続しても、お互いに不幸なように感じます。話し合って、なんとか退職してもらうよう説得する(退職勧奨)というのが、選択肢の中の最有力候補かと思われます。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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