【交通事故と賠償責任】
交通事故が発生した際、原則としてその責任は、運転者が負います。しかし、その運転が、事業の執行について行われた場合は、使用者である会社も責任を負うことになります。また、事故を引き起こした車両の所有者(おそらく会社)も責任を負います。この場合、被害者は、 「取れるところに対して損害賠償請求」することになるのが世の常です。
貴社の場合、対人対物賠償については、任意保険を完備されているようです。従って、被害者からの請求は、基本的に保険金で支払われることになると思われます。ただ、保険を利用することにより、翌年の保険料が高くなったりしますので、できることなら無事故であることに越したことはありません。そのため、免責を設定し、免責額の範囲内で運転していた従業員に負担させる例もよくあります。
【車両損害と求償】
さて、貴社が所有する車両が被った損害について、運転していた従業員に対して損害賠償請求することが許されるでしょうか。結論は、許されます。実際に損害を受けており、それが従業員の過失によるものだからです。問題となるのは、果たして全額従業員に負担させて良いのかという点です。
様々な裁判例がありますが、従業員の負担割合として、2 分の 1 から 4 分の 1 くらいの範囲とされているものが多いようです。もちろん、従業員が故意に事故を起こしたケース等であれば、全額賠償が認められる可能性は高いと考えます。
ところで、例えば車両の損害額が数万円程度で、従業員に全額を請求したところ、従業員がこれを支払った場合は、どう考えたら良いでしょうか。この場合は、本人が賠償義務を認めて支払ったということで、特に問題にはならないのです。従って、車両損害額を全額賠償させること自体が違法だということではありません。ただ、賠償させようとしたところ、訴訟になって争った結果として認められる保障もないという感じです。 私見ですが、 普段は模範ドライバーでも事故を起こす可能性はありますし、そういう場合にモチベーションを下げても会社にとって好ましくありません。全額にこだわらず、半額負担程度に抑えた方が良いかと考えます。
【減給処分】
減給処分については、明確に法律で上限規制されています。1 事案につき、平均賃金 1 日分の半額を 1 回きり、という内容です。平均賃金 1 日分とは、ざっくりですが月給額の 30 分の 1 くらいです。その半額だと、月給額の 60 分の 1 くらいに過ぎません。即ち、3 万円の減給をするためには、月給 180 万円以上の従業員でなければ対象となり得ません。
その前に、あらかじめ違約金の額を定めること自体が違法とされています。具体的に「○円」と定めた時点で、違法なのです。減給処分の名で実施したとしても、実質的に罰金であって、違約金の定めに該当するというわけです。
従って、少額ではありますが、法に遵って「平均賃金 1 日分の半額以下」とするしかありません。月給 30 万円の場合、わずか 5000 円程度です。なお、あらかじめ就業規則に懲戒事由として車両事故について明確に定めておくことが望まれます。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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