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福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《平成30年11月号》
法改正後の時間外上限規制の具体的な時間数
  質 問

【質問者】
 販売業(正社員 10 名、契約社員 5 名、パート・アルバイト 20 名)

【質問内容】
 当社は、販売業を営む株式会社です。営業時間が長いため、正社員についてはそれなりに残業時間が発生しています。そこで心配なのが、働き方改革で残業時間が規制されることです。
 現在、時間外協定は 1 日 6 時間、1 カ月 45 時間、1 年 360 時間を原則とし、特別延長として年間 6 カ月までは 1 カ月 80 時間、1 年 750 時間という内容です。期間は、1月 1 日から 12 月 31 日の 1 年間で更新しています。しかし、大きな声で言えないのですが、たまに 1 カ月 80 時間を越えることもあります。また、少なくとも年間 6 カ月については月 45 時間以内にしなければならないのですが、なかなか実現できておりません。労働時間の短縮の努力はしていますが、人材確保も難しく、なかなか進んでいないのが現状です。
 このような中、予定されている法改正により、特別延長でも上限が 720 時間になると聞きました。今より厳しくなります。一方で、1 カ月の上限は 100 時間未満ということなので、現在の協定の 80 時間よりもゆとりができます。そして 2 カ月以上を平均して 80 時間以内という話しですが、よくわかりません。そもそも、現在と比較してさほど大きな変更でないような気もしています。
 法改正後において、具体的にどこからが違法となるのか教えて下さい。

  回 答

【法改正】
 時間外協定に関する法改正は、大企業は平成 31 年 4 月から適用されますが、貴社を含む中小企業はさらに 1 年後の平成 32 年 4 月から適用されます。貴社の場合、1 月 1日始期で 1 年間の協定を更新されているようですので、このままいけば、平成 33 年 1月からの適用となる見込みです。
 感じられているとおり、現在の協定内容と比較すると、上限時間としてさほど大きな変更はありませんね。実は大きな相違点は、これまでの「原則月 45 時間以下」等は厚生労働省の告示だったのですが、法改正によって労働基準法に明示される点なのです。明示されることにより、直接罰則が適用されることになります。ただ、これまでも協定で定めた上限時間を越えれば間接的に法違反を問われましたので、実質的には大きな違いがありません。何が違うかというと、社会の流れが長時間労働を許さないという姿勢が明確にされたという感じだと考えております。

【上限時間】
 法改正の具体的な時間外の上限規制は、ご理解いただいているとおりです。仰るとおり、ちょっとややこしいです。2 カ月〜 6 カ月を平均して 80 時間以内というのは、ある月に 80 時間を越えた場合、その翌月は上限の 100 時間未満まで認められず、 「前月と当月を平均して 80 時間以下」としなければならないことを意味します。仮にある月の時間外が 90 時間だった場合、その翌月は 70 時間以下としなければ「2 カ月を平均して 80 時間以下」とならないわけです。同様に、2 カ月間だけでなく、3 カ月間、4カ月間、5 カ月間、6 カ月間の平均値も、常に 80 時間を越えることが許されないことになります。
 仮に最初の月(1 月)の時間外が 99 時間だったとします。2 月は自動的に 61 時間が上限となります。2 月が 61 時間だったとして、3 月は 3 カ月平均 80 時間以下とするため 80 時間が上限です。上限どおりの時間外実績が続けば、4 月、5 月、6 月も毎月 80時間となります。ここで、月 45 時間を越えることが可能な 6 カ月を使い切ってしまいました(累計 480 時間) 。ので、7 月以降は毎月 45 時間が上限となります。ところが、上限ギリギリ 45 時間が続いた場合、11 月で累計 705 時間となります。ここで「年間上限 720 時間」の関係で、12 月の時間外は 15 時間までとなってしまいます。以上のとおり、単月だけでなく、年間を通して管理する必要があります。

【協定内容】
 貴社の現状から、法改正後の上限ギリギリの時間数で協定したとしても、少し厳しそうです。ということは、本気で労働時間短縮に取り組まざるを得ません。どうしてもできそうになければ、営業時間の短縮も検討せざるを得ないのが、世の中の流れです。また、上限時間だけを守れば良いのではなく、過重労働にも留意する必要があります。一般に時間外 80 時間を過労死ラインというように、時間外 80 時間を越えた従業員が精神疾患等に罹患した場合、事業所の責任を問われることになりかねません。労働時間短縮は、法規制のため渋々というよりも、事業所を守るために積極的に取り組む姿勢が必要だと言えるでしょう。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
810-0041福岡市中央区大名2-10-3-シャンボール大名C1001
TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
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