【扶養】
日本の被扶養者、特に被扶養配偶者については、いまだに昭和の「夫・サラリーマン、妻・専業主婦、子供 2 人」がモデルケースとされたままです。多くの矛盾が噴出しているのが現状です。しかしながら、法改正されない限り、この前提で対応せざるを得ないわけで、つらいところです。
「扶養」 は、 社会保険と所得税とを区分して考える必要があります。 一般に 「年収 103万円」という数字が有名ですが、これは所得税の話しです。しかも、配偶者については、一定要件のもと 150 万円まで特別控除制度が創設されています。社会保険は、 「年収 130 万円」という基準があります。所得税と社会保険の年収基準の最大の違いは、所得税が毎年 1 月〜 12 月の実績(結果)であることに対し、社会保険はこれから 1 年間の見込みであることです。ずっと無職だった被扶養配偶者が、9 月から就職して毎月 20 万円の給与を得ることになった場合、1 月〜 7 月は被扶養者で、8 月から被扶養者でなくなるのは、社会保険の話しです。今後 1 年間の見込みが、240 万円だからです。所得税は、この年の 12 月までの 4 カ月間で、年収 80 万円の結果であれば、結論としてこの年は 1 年間被扶養者だったものとして取り扱うことになります。
【所得税】
所得税の被扶養者の範囲内を希望する人の多くは、 「誤解」しています。 「扶養の範囲を超えると税金を取られて損をする」という誤解です。何故誤解かというと、被扶養者の範囲を超えたとしても、所得税はその全額が課税対象となるのではなく、越えた部分のみが課税対象となるからです。しかも、所得税と市県民税を合わせても、せいぜい 15 %程度ですから、年間 10 万円超過したとしても、手取は 8 万 5000 円は増える計算となります。配偶者の控除額が減少することで、配偶者の税金が少し高くなる可能性はありますが、夫婦合算で「損をする」ことにはなりません。
問題は、配偶者の勤務先において、被扶養配偶者の所得が一定以上である場合に、家族手当を打ち切るルールがある場合等です。これは、配偶者の勤務先に確認しなければ分かりません。
【社会保険】
扶養の範囲内から外れると負担が大きいのは、社会保険です。被扶養者の範囲内なら負担ゼロですが、外れれば勤務先で加入するか、できないときは個人で国民健康保険料と国民年金保険料を負担することになります。
社会保険の扶養の範囲は、 「年収 130 万円」という数字が一人歩きしていますが、実は基準はこれだけでなく、パートとして所定労働時間が 30 時間以上であれば給与の額と無関係に本人として社会保険が適用されます。また、現在は 501 人以上の大企業だけですが、いずれは週 20 時間以上で適用されることになる可能性が高いといえます。
【労働時間を減らさない説得】
現時点においては、配偶者の勤務先の家族手当について問題が無いことが前提であれば、所得税の扶養の範囲は気にせず、社会保険だけ扶養の範囲内であれば問題ないことになります。結論として、週 30 時間未満で、かつ、月収で概ね 10 万円ちょっとまでなら、労働時間を減らさないよう説得可能かと思われます。時間給 1000 円くらいなら、月 100 時間くらいまでのイメージです。ちょっと注意したいのが、所得税では通勤手当は原則非課税ですが、社会保険では「収入」に含まれる点です。給与は月 10万円でも、通勤手当が 1 万円あれば、11 万円(年 132 万)になってしまいます…
パート社員にこの話をする際には、 将来的に社会保険の加入基準が週 20 時間、 月収 6〜 7 万円に変更される可能性があることは、伝えておく必要があると思います。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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