【賞与の原則】
賞与は、法律上支給する義務がありません。従って、支給する場合においては、その支給額の計算方法等について、原則として事業所が自由に定めることができます。しかし、いったん賞与支給額の計算方法等について定めてしまえば、事業所もその定めに拘束されてしまいます。賞与の計算方法等自体が、個々の従業員との労働契約の内容の一部となってしまうためです。
貴社の場合、 「その都度総合評価」という運用ですから、具体的な計算方法等は確立していません。ただ、今回問題となっている本人について言えば、賞与額が「だいたいいつも 20 〜 30 万円」という結果だけが客観的に確認できるところです。
【最近の裁判例】
髭に関して、最近の裁判例があります。大阪市営地下鉄の運転士に対し、髭を理由として人事評価を下げたことについて、裁判所は本人の人格的利益を侵害するとして市に慰藉料支払いを命じました(大阪地裁、平成 31 年 1 月 17 日) 。この裁判例の考え方でいけば、貴社が現在検討されている「髭を理由として評価を下げる」ことは認められない可能性が高いかもしれません。
一方で、裁判例は、運転士に対するものです。貴社の場合、直接顧客と接する販売職なので、身だしなみの重要度に相違があると考えます。また、就業規則にも、注意を受けたら改めるべき規定があります。裁判例の結果だけをみて判断しなければならないというわけではなさそうです。しかしながら、憲法が表現の自由を認めていること、実際に顧客からクレーム等がないこと等を考慮すると、評価を下げることが認められない可能性がないわけではありません。
【検討】
私見は、 「髭を剃らないこと等」を理由として評価を下げるのではなく、 「指導に対し検討すらせず全く従う意思がないこと」を問題視したいと考えます。また、他の身だしなみに問題のない従業員と同じ扱いで良いのかという視点も必要です。万一訴訟となった場合に敗訴リスクがないわけではありませんが、最終的には経営判断で評価を下げてしかるべきかと考えます。
評価の結果としての賞与額ですが、 これも明確な基準がありません。 しかし、 通常 20〜 30 万円の賞与が繰り返し支払われてきた者に対し、いきなり半額以下の 10 万円程度とするためには、相当の根拠が必要だと考えられます。他の従業員を含めて、過去に賞与額を引き下げた実績等をも考慮して、慎重に検討いただきたいと思います。多少リスクはあるかと思いますが、10 万円程度とすること自体が明確に違法というわけではありません。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
|