そこが知りたい!労働法

                     前へ<<               >>次へ
福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《令和元年5月号》
同一でない労働でも手当や賞与支給
  質 問

【質問者】
 飲食業(正社員 3 名、契約社員 3 名、パート・アルバイト 10 名)

【質問内容】
当社は、飲食業を営む株式会社です。細々とではありますが、既に店舗オープンから 20 年を経過しました。正社員のうち 1 名はオープン当初から、もう 1 名も勤続 10年を越えています。
働き方改革の「同一労働同一賃金」がとても気になります。基本的な従業員の業務は、調理、接客です。これは正社員、契約社員、アルバイトはすべて担当しています。仕事が異なる点として、店長だけレジ締め、従業員の勤務シフト作成があります。店長が休みの時は、副店長が行います。正社員は、店長、副店長と若い正社員の 3 名です。この若い正社員と契約社員の仕事は、正直なところ全く同じです。全く同じですが、給与もほぼ同じ額です。パート・アルバイトも仕事もほとんど同じですが、最近は時給が高くなったので、1 時間単価で比較すると契約社員より少し高い人もいます。 以上のように、給与水準では問題にならないと思うのですが、最近、正社員だけに手当を支払っていると、問題になると聞きました。当社も正社員だけに手当がありまして、役職(店長・副店長)手当、職務手当、住宅手当、家族手当があります。住宅手当は、家賃補助として最高 3 万円まで、家族手当は子供を対象として 1 人 5000 円です。職務手当は、特に深い意味は無く、昇給の時に基本給と職務手当を少しずつ上げてきたような感じです。
また、賞与、退職金も、正社員だけです。賞与は、利益の状況に応じてその都度支給額を決めます。退職金は、勤続 3 年で中小企業退職金共済を掛けています。 契約社員やアルバイト・パートに手当、賞与、退職金等を請求された場合、支払わなければならなくなるのでしょうか?

  回 答

【均等待遇と均衡待遇】
一般に「同一労働同一賃金」と言われますが、ご指摘のとおり、 「同一でない労働でも同じような賃金」という考え方があります。同一労働同一賃金は、 「均等待遇」とも表現されますが、同じ職務なら同じ賃金という考え方です。これに対し、職務が異なる場合でも、その実態に照らして、不合理な相違を設けてはならないとする考え方を、 「均衡待遇」といいます。
既に裁判例が次々と出てきておりますが、皆勤手当や通勤手当等は、たとえ職務が異なっても、同じ職場に通勤するという観点から、不合理な差があることは認められない、というような感じです。

【諸手当】
役職手当は、 役職者に対してその職責等への対償として支給する手当でしょうから、合理性が認められます。問題は、その他の手当ですね。住宅手当は、多くの裁判例によると、転居をともなう異動が予定されている労働者だけに支給する場合等を除き、契約社員にも支給を命じています。アルバイト等についてどのように判断するかは微妙ですが、長時間アルバイト等の賃金によって生活していて、実質的に契約社員と大差ないような実態がある場合は、 支給を命ぜられる可能性が高いものと考えています。
家族手当についても、基本的な考え方は変わらないと思われます。職務手当については、そもそも支給目的も不明確なので、正社員だけに支給することに合理性が認められることはないと考えられます。

【賞与、退職金】
賞与、退職金についても、基本的には手当の考え方と同様です。正社員だけに支払うことについて、合理性が認められるかどうかという問題です。
賞与は、利益の程度に応じてその都度定める額を支払われているようですから、労働の結果への対償として支払われているようです。ということは、契約社員やアルバイト等であっても、その貢献度等に応じて支払うのが合理的だと考えられます。賞与については、法律上最低賃金等の規定もありません。可能であれば、少額で構わないので全従業員に支払った方がよいかもしれません。
退職金は悩ましいですね。 最近の裁判例 (メトロコマース事件、 東京地裁平成 31 年 2月 20 日判決)は、部分的ではありますが、契約社員に対する退職金支払いを命じました。退職金については、功労報償的性質の他、賃金後払い的性質があるとされています。従って、勤続年数が一定以上の契約社員については、非常にリスクが高いと考えられます。アルバイト等については、個々の状況にもよりますが、勤続年数等に応じて支払わざるを得なくなる可能性はゼロではないと考えておく必要があるように思われます。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
810-0041福岡市中央区大名2-10-3-シャンボール大名C1001
TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
                     前へ<<               >>次へ
>>そこが知りたい!労働法リストに戻る