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福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《令和元年10月号》
妊娠中の女性従業員への退職勧奨
  質 問

【質問者】
 製造業(正社員 15 名、パート 20 名)

【質問内容】
 当社は、製造業を営む株式会社です。当社も事務作業の省力化等をすすめてきた結果、単純な事務作業については、業務量が以前と比較するとかなり減ってきました。そのため、以前は事務職だった正社員も、その後営業職や工場作業職に異動させたりで、今は 3 人で対応しています。
 この 3 人のうち 1 人に、問題があります。ちょっと時間が空いても、進んで他の従業員を手伝ったりすることは絶対ありませんが、お願いしても「私の仕事ではありません」と言って断るのです。そのため、周囲の者は、この事務員には頼みにくいため、事務の仕事も他の 2 人にばかり依頼するようになってしまいました。当然、他の 2 人は残業が増えます。それなのに、本人は何とも思わないようで、逆に仕事が少ないから 1 人だけ必ず定時で帰ってしまいます。このような状態が続いた結果、完全に浮いてしまうだけでなく、周囲にかなり悪影響を及ぼすようになりました。注意しても、「私は自分の仕事はしていますから、そのように言われる筋合いはありません。パワハラですよ。」と真顔で答えます…
 当社は、検討に検討を重ねた結果、この事務員に対して退職勧奨を実施するしかないという結論に至りました。ところが、いつ退職勧奨を実施するか検討していたタイミングで、本人から妊娠したという報告があったのです。最近は、妊娠と聞くと、すぐに「マタハラ」という言葉が浮かびます。そのため、いったん退職勧奨することを見送ることとしました。
 話しはまだ続きます。妊娠以来、本人はその日の体調の良し悪しで、出社したりしなかったりという状況になりました。出社した日も、途中で早退することも少なくありません。「自分の仕事」が完全に滞る状態になったため、周囲がその仕事の対応に追われるようになりました。それなのに、本人は感謝の意を示すこともありません。そしてついに、管理職を除く正社員全員の連署で、本人を退職させてほしいという嘆願書が出されたのです。
 当社としても、嘆願書に書かれた内容と全く同感で、そうしたいと願っています。しかし、妊娠中だから、マタハラで訴えられるのは困ります。果たして、退職勧奨しても良いものなんでしょうか。

  回 答

【業務上の指示】
 本人は、「労働契約」というものがわかっていないようです。労働契約においては労働者は「事業所の指示命令に従って」労務を提供しなければなりません。事業所から他の人の仕事を手伝うように言われたとき、もし断って良いとすれば、それは職務が限定された契約であることが前提でなければなりません。貴社の場合、正社員は職種の異動実績もあるようですし、少なくとも他の従業員は普通に他の人の仕事を手伝う慣行もあるようですし、本来は断ることができないものと考えられます。
 以上から、対応方法の 1 つとして、正式な指示として対応するよう命ずることも視野に入れ、断れば業務命令違反として、繰り返すなら懲戒処分も視野に、という流れも考えられるでしょう。

【男女雇用機会均等法】
 さて、男女雇用機会均等法第 9 条第 3 項は、妊娠したこと等を理由として、不利益な取扱いを、同第 4 項は妊娠中の解雇を禁止しています。退職勧奨することは、妊娠したことを理由とするものでありませんし、解雇でもありませんから、この条文に抵触しません。同法第 11 条の 2 は、妊娠したこと等に関する言動で女性労働者の就業環境を害されないようにすることを義務づけています。いわゆるマタハラ防止法です。しかし、退職勧奨することは、妊娠したことに関する言動にはあたりません。
 以上の通り、妊娠中の労働者に対し、退職勧奨をすること自体が明確に条文で禁止されているわけではありません。

【経営判断】
 条文で明確に禁止されていないから、退職勧奨して良いかというと、ここが難しい問題です。今回は、妊娠した時点でいったん退職勧奨することを見送ったわけですが、その後の出勤状況が悪いため、やはり退職勧奨を、という流れのようです。妊娠したことが理由で体調が悪くなり、そのため正常な出勤ができないことが退職勧奨をするきっかけになったと解釈すると、会社にとって分が悪いかもしれません。最終的には経営判断ですが、リスク予防の観点から、健康配慮義務を前提として、早めの休業を認め、退職勧奨は復職後に検討するという選択肢もあると思われます。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
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TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
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