【業務上の指示】
本人は、「労働契約」というものがわかっていないようです。労働契約においては労働者は「事業所の指示命令に従って」労務を提供しなければなりません。事業所から他の人の仕事を手伝うように言われたとき、もし断って良いとすれば、それは職務が限定された契約であることが前提でなければなりません。貴社の場合、正社員は職種の異動実績もあるようですし、少なくとも他の従業員は普通に他の人の仕事を手伝う慣行もあるようですし、本来は断ることができないものと考えられます。
以上から、対応方法の 1 つとして、正式な指示として対応するよう命ずることも視野に入れ、断れば業務命令違反として、繰り返すなら懲戒処分も視野に、という流れも考えられるでしょう。
【男女雇用機会均等法】
さて、男女雇用機会均等法第 9 条第 3 項は、妊娠したこと等を理由として、不利益な取扱いを、同第 4 項は妊娠中の解雇を禁止しています。退職勧奨することは、妊娠したことを理由とするものでありませんし、解雇でもありませんから、この条文に抵触しません。同法第 11 条の 2 は、妊娠したこと等に関する言動で女性労働者の就業環境を害されないようにすることを義務づけています。いわゆるマタハラ防止法です。しかし、退職勧奨することは、妊娠したことに関する言動にはあたりません。
以上の通り、妊娠中の労働者に対し、退職勧奨をすること自体が明確に条文で禁止されているわけではありません。
【経営判断】
条文で明確に禁止されていないから、退職勧奨して良いかというと、ここが難しい問題です。今回は、妊娠した時点でいったん退職勧奨することを見送ったわけですが、その後の出勤状況が悪いため、やはり退職勧奨を、という流れのようです。妊娠したことが理由で体調が悪くなり、そのため正常な出勤ができないことが退職勧奨をするきっかけになったと解釈すると、会社にとって分が悪いかもしれません。最終的には経営判断ですが、リスク予防の観点から、健康配慮義務を前提として、早めの休業を認め、退職勧奨は復職後に検討するという選択肢もあると思われます。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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