【管理監督者】
貴社において、課長以上を管理職として扱うことについては、法律上何ら問題はありません。注意したい事項は、各事業所が管理職と位置づけるかどうかは各事業所の自由ですが、管理監督者に当たるかどうかは法律で決まることです。管理職=管理監督者ではないのです。
しかし、管理監督者に当たるかどうかについて、明確な基準がありません。究極的に言えば、裁判でもしなければ定まりません。しかし、過去の裁判例等から、なんとなくおぼろげな基準のような太いラインは見えています。
管理監督者とは、結論から言えば、「経営者と一体的な立場にある労働者」とされています。小職は、この定義の表現はおかしいと考えております。労働者とは、雇用された者をいうのであって、経営者ではありません。即ち、経営者と一体的な立場にある労働者とは、極めて特殊な例外的な労働者をいうものだと考えておいた方が無難だということになります。
一般に、労務に関する権限、自らの出退勤の自由、十分な待遇等が判断基準と言われますが、そう簡単に認められない基準です。
【管理監督者とするリスク】
仮に管理監督者として運用している者から残業代を請求され、管理監督者であることが否認された場合、その経済的な被害は莫大です。何故なら、@既払い残業代がなく、すべての残業代をゼロから支払う義務、A管理職であるが為、残業代の単価が高額、というダブルパンチを食らうからです。
仮に管理監督者の給与が月額 51 万円、所定労働時間が月 170 時間、時間外が 1 日約 2時間(月平均 45 時間)くらいだった場合、1 カ月の未払い残業代は 16 万 8750 円となります。賃金消滅時効は 2 年ですから、2 年分で 405 万円です。しかも、民法改正にともない、4 月から当分の間は時効が 3 年になります。3 年分なら 607 万 5000 円です。
さらに数年後は、時効 5 年になることが見込まれます。そうなった後は、5 年分で 1012万 5000 円もの未払い残業代となってしまいます。
貴社の場合、10 人を管理監督者扱いとされています。具体的は分かりませんが、部長を除く 7 人はほぼ確実に認められないと推測します。7 人分で考えると、恐ろしい未払額になりかねません。さらに、部長 3 名についても認められるか不安です。
【管理監督者としない対策】
私見は、管理職であっても、残業代を支払うことを前提として賃金を設定する方がリスクがないと考えます。先ほどの例では、管理監督者だから 51 万円の給与でしたが、管理監督者とせず別途残業代を支払うことを前提として、40 万円程度の給与とすると良いように思います。月 45 時間程度の時間外があれば、残業代は 13 万円程度です。
これで、未払い残業代を請求されることがなくなると考えると、経営的にはこのような選択をしたいですね。
ただ既存の管理職に対し、賃金を減額して残業代を支払うことに変更することは、いわゆる不利益変更に当たるため、よくよく話し合って合意を得ることが必要です。
逆に合意を得られないときは、やぶ蛇になってしまう可能性も考えられます。このことからわかるように、事業所は管理監督者扱いしたり昇給したりする前に、労働法を意識して決定するという癖をつけておくことが肝要なのです。
特に、今後賃金の時効期間が延長されます。一般に、サービス残業のリスクが取りざたされていますが、最も恐ろしいリスクは全く残業代を支払っていない管理監督者なのです。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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