【民法改正】
身元保証については、「身元保証ニ関スル法律」という古い法律があります。昭和 8年に制定され、既に 80 年以上前の法律です。その後改正されることなく、漢字とカタカナのままですが、現在も有効な法律です。
今回法律が改正されたのは、この法律でなく、民法です。貸金等の「根保証」について、保証人が知らない間に想定外の多額の保証人になってしまうと問題なので、極度額が必要とされていました。「極度額」は、「限度額」と読み替えた方がわかりやすかもしれませんね。根保証の保証人は、あらかじめ決められた限度を超えて保証する義務を負わないわけです。今回の民法改正は、この貸金等の根保証契約に限らず、個人を保証人とする契約一般についても極度額を定めなければならないという内容です。
身元保証契約において身元保証人は、連帯保証契約のような厳しい義務は負いません。しかし、少なくとも形式的には保証額が青天井です。今回の民法改正により、極度額を明示することが必要になりました。
貴社の場合、昔から使用されている身元保証書には、極度額が明示されていないと思われます。少なくとも、令和 2 年 4 月 1 日以後に提出させる身元保証書には、極度額の記載が必要です。
もし極度額の記載がない身元保証書を提出させても、無効となると解釈されています(法制審議会の議事録より)。
【極度額の決め方】
極度額は、金額が具体的に分かる必要があるとされています。
たとえば、「本人の年収相当額」とした場合、おおよその額は想像できますが、残業代や賞与等不確定要素も多々ありますし、明確な額がわかりませんね。「本人の固定月額の 12 カ月分相当額」なら、明確な額がわかりそうです。しかし、わかりそうですが、少なくとも身元保証書の書面だけでは、客観的にはわかりません。
結論として、明確に「○○万円」とか、「本人の月給○○万円の 12 カ月分」のように、身元保証書の書面だけで具体的な額が分かるようにしておく必要があります。
最後に、具体的にどのくらいの金額にすれば良いのかという問題があります。昭和 8年から 80 年以上、誰も考えなかった問題ですから、相場も難しく、何とも言い難いところです。高額であればあるほど、身元保証人の引き受け手が躊躇するのではないかという不安の声をよく聞きます。しかし、考え方を変えれば、改正前は青天井だったわけですから、仮に極度額 1000 万円であっても、改正後は身元保証人に有利になっていることは間違いないのです。ただ、そう言っても、人間の感情と言いますか、難しい問題であることはよく理解できます。
小職は、どうしても決めきれないときは、「固定月額○○円の 36 カ月分」という目安を示しています。採用時の給与ですから、一般には比較的低めです。月給 20 万円であれば 720 万円です。これくらいでいいのではないでしょうか。これでもちょっと気が引ける場合は、「固定月額○○円の 24 カ月分」でもいいかもしれません。くれぐれも、「固定月額○○円」のところに、具体的な金額を記入することを忘れないようにすることが重要です。
【身元保証人】
身元保証人は、連帯保証人ではありません。もし本人の行為のため、身元保証人に迷惑が及ぶ可能性があるときは、事業所は身元保証人に通知する義務があります。また、事業所が被った損害の全額を請求しても、身元保証人は必ずしも全額を賠償する義務を負いません。裁判例でも、半額とか、3 分の 1 とか、個別諸事情を勘案して賠償額を決めています。事業所としては、身元保証書は抑止力程度で考えておくくらいが、ちょうど良さそうです。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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