【自転車保険義務化の流れ】
自動車の場合、自動車賠償責任保険(自賠責保険)、いわゆる強制保険について、法律上加入が義務づけられています。
これに対し、自転車の場合は、法律上の保険加入義務がありません。しかし、地方公共団体によっては、条例等で加入を義務づけている場合があるのです。山形県、東京都、埼玉県、神奈川県、静岡県、山梨県、長野県、滋賀県、京都府、奈良県、大阪府、兵庫県、愛媛県、福岡県、鹿児島県が、条例等で加入を義務づけている地方公共団体です。貴社は福岡県だと思われますが、福岡県は、福岡市と同時に令和 2 年 10 月 1日付けで条例改正され、自転車保険加入が義務化されます。
上記のいずれかに所在する事業所については、自転車保険についても義務、すなわち強制保険のようなものだということになります。ただ、自賠責保険との違いは、具体的に加入する保険内容等が定められているわけではなく、保険の内容は原則として自転車利用者に任されています。
【自転車保険の中身】
「自転車保険」といっても、条例等で義務づけられる保険の具体的な内容は、第三者への損害賠償責任保険です。つまり、わざわざ「自転車保険」という名称の保険に加入しなければならないのではなく、既に加入している自動車保険や火災保険に特約として「個人賠償責任保険特約」を追加するだけで構わないのです。
個人賠償責任保険の特徴は、加入者個人及び同居家族全員が、自転車事故その他の個人的な行為によりに法律上の損害賠償義務を負った場合に補償されることです。自動車保険の場合、「自動車」に保険をかけますが、賠償責任保険は「人」に保険をかけるのです。従って、仮に乗っている自転車を保険対象として登録することもありませんし、自転車を乗り換えても手続等は不要です。
【保険加入義務づけ】
貴社の場合、所在する地方公共団体が条例で自転車保険加入を義務づけていない場合であっても、貴社の施設管理権に基づいて、敷地内に駐輪する条件として自転車保険加入を義務づけて構いません。例えば、火災保険は法律や条例で加入義務はありませんが、住宅ローン契約や賃貸借契約に付随して義務づけられることが一般的ですが、これと似ています。火災保険に加入しないのであれば、ローン契約や賃貸借契約ができないように、自転車保険に加入しないのであれば、敷地内に駐輪することを許可しなければ良いわけです。
自転車保険に加入せず、会社の近隣に駐輪することにより、近隣に迷惑を及ぼす可能性があるかもしれません。これに対しては、自転車保険加入義務化と同時に、近隣駐輪等で迷惑をかけることを禁止する旨社内規定で定めるべきでしょう。ただ、現実的には、自転車保険は年間保険料も千円〜数千円程度ですから、これを拒む従業員が生じる可能性は低いと思われます。加入後は、会社に保険証券等のコピーを提出してもらうようにしましょう。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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